ては大変よ。今言つた通り外で待つててちようだい。きつと行くから』
とこう申すのです。
彼女のその時のようすは万更嘘でもなかつたらしいのですが、私はもうのぼせ切つておりますから、
『そんな事を云つて逃げようとしても駄目だ。今度こそ逃しはせぬぞ』
と云いながら彼女の右の腕のところを両手でしつかと押えました。
やす子は、ともかく今ここで話しているのを人に見られては大変と云いながら何とかして逃げようとしますので私も怒りの余り掴んだ彼女の腕をとつて二、三尺自分の方に引きずりよせした。
『あなた、ほんとうにそんな乱暴をする気なの。じや声をあげて人をよぶわよ』
と申しましたが、さすが、大きな声もあげませんでしたが、家の方を見て急に、
『あれ誰かこつちに来る!』
と叫びました。
思わず私が、立派な母屋の方を見ると、ちようど燈のついている部屋の横から誰か来るのが見えます。私は驚いて手を放し、小声でじやあとで来るのを待つてるぜ、
と云うや否や再び同じ木から伝つて外に逃げたのです」
「うんお前は、そこでやす子と今云つた通りの問答をしたんだね。そしてお前は、あざのつく位強い力でやす子の腕をつかんでいたのだな」と警部が云う。
「そうです」
「お前の今までの話ではやす子は情夫と一緒かどうかは別としてともかくお前を嫌つて逃げ出したと思わなけりやならん。これはいくらお前が自惚れて見たところで認めなければならぬ筈だ。そのお前がいきなり庭にとび込んだ時、女の方から寄つて来たというのもずいぶんおかしな話だが、あんな乱暴されている間、黙つていたというのはちとうけとれん話だね」
7
「ですけれど今申した所がほんとなのです」
「腕をあんなに痛められた上に引ずられたりすれば、大きな声をあげなけりやならない。……お前その時、同時に首をしめたんじやないか」
「いいえ、決してそんな……」
「しかしその時は、今お前の云う通り、お前は夢中になつていた筈だ。夢中であるいはやつたかも知れないではないか」
「いえ、私は決して彼女を殺す気なんかははじめからないのです」
「そうではない。私はお前がやす子を殺そうとしたとは云わん。しかし今云つたように叫び声をとめようとして夢中で手をやつたんじやないか。そうだろう。よく考えてごらん」
「…………」
早川辰吉は暫く何も云わずに下を向いていたが、やがて眉を
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