件、秋川徳子の殺人事件において彼女がどういう関係に立つているかということさ。今しばらくやす子の痴情関係や怨恨関係を考えの外にして研究して見給え。彼女は秋川一家に対する怨恨事件に重大な関係がある」
私はこう云われてはじめて佐田やす子の死体を見た時の林田の言葉を思い出した。
「君は林田の言葉を忘れたかい。彼は彼女の死体を見た時に何と云つた。大切な証人をなくしてしまつたと云つたじやないか。ほんとにそうだよ。僕らはやす子が死んだので重大な証人を失つてしまつたんだ」
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「君も知つている通り、佐田やす子は十七日午後に西郷薬局に使いに行つた女なのだ。
誰もあんなことになるとは思わなかつたので彼女が何時に秋川邸を出て何時に帰つて来たか、また西郷薬局に何時について何時にそこを去つたか、そんなことは一人も覚えてはいない。問題となるのはそこなんだ。しかも甚だ困難な点なのだ。これが正確に判つていればもつと厳しく彼女を責めることが出来たのだが誰も時間を正確にはかつていた者がない。ただ少し時間がかかりすぎたようだと皆がいうのをたよりに僕も林田も恐らくは警察も彼女を訊問したけれども、何分《なにぶん》こつちに充分な時間的な証拠がないので、とうとう新しい事実は一つもつかみ出せなかつた。もつとも一回は一回よりうまく行つていたので、昨夜あれからもう一回調べたらあるいはほんとのことを自白させることが出来たかも知れない。もし彼女がほんとのことを云つたとすれば少くもあの昇汞が秋川家に来るまでに代つたか、来てからかわつたかが判然とするわけだつたのだ。ねえ、判つたろう、彼女が秋川徳子の事件に対して如何に重大な立場に立つていたかということが」
「うん、成程」
「そのやす子が殺されたのだ、とりもなおさず徳子の犯人にとつては非常な利益じやないか。もし、かの草笛氏が仮りに痴情か何かの結果、やす子を殺したとすれば、彼氏は知らずして徳子の犯人をかばつたことになる。これははたして偶然だろうか」
「しかしもし徳子の犯人が昨夜駿太郎を殺したとすればいかなる方法でやす子を殺したかね」
「さ、そのデテイルについてはあとで考えよう。そこで僕の考えでは、もし草笛氏がやす子の殺人犯人だつたとしたら、とりもなおさず彼が徳子の犯人だとしていいと思うよ。君も知つているとおり[#「とおり」は底本では「とあり」]犯罪によつてまず
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