ンをしきりに読んでいたという性格の女であること。大変に理智的な女性であること。これらは注意すべきことの第五。
次にさだ子自身に脅迫状が一回来た。しかし彼女は事件直後、検事の前に出た途端、自分が殺人犯人と疑われているのじやないかと思つてヒステリカルになつた。と同時に伊達正男の行動に対して嘘を云つた。これが第六。事件後秋川駿三自身は誰を疑つているのか少しも判らない。林田探偵に依頼したのは一体いつだかはつきり判然せぬ、これが注意すべき事実の第七、である。無論まだ注意すべき細かい点はたくさんあるがこれは今までに君に云つたことだからここには省く。
さて右の七つの事実をよく考えて見たまえ。第一の事実は、犯人が家庭外にいることを暗示、もしくは明示しているが、第二以下第七までの事実は反対に家庭内に怪しい人間がいるのを示しているではないか。いやむしろ、犯人は家庭内にありと信じた方が正しい位だ。
ところで愈々昨日の事件、第二の事件を考えて見よう。一体犯人は駿太郎を殺すつもりだつたのだろうか、佐田やす子を殺すつもりだつたのかしら」
「僕にはよく判らないが、例の草笛の一件から思うと、犯人はまず佐田やす子を、さそい出して殺し、それから(もし犯人が一人だとすればね)駿太郎をおそつたんじやないかな」
「何故佐田を狙つたろう」
「そりや判らないさ。しかし痴情とか何とかいうことがあるからね」
「それならどうして駿太郎をやつつけたろう」
「さあ、……こう考える事は出来るね。佐田やす子を殺している所を見つけられたのでこれも一思いにやつちまつたとね」
「じやその時駿太郎はどこにいたんだね」
藤枝は皮肉な目付で私を見た。
4
「君のようなそんなことを云つたつて、僕は犯人じやないのだからそう詳しいことは判らんよ」
「いや失敬失敬。君の考えが一寸ききたかつたものだからね。判つたよ。君の云わんずるテオリーは、つまりこうだろう。例の草笛か何かの相図で佐田やす子が庭に出て来る。相図をした奴は塀を乗り越えてはいりこみ東南の木立の下で話をしたがとうとう談判破裂でやす子を殺してしまつた。これは駿太郎が何かの拍子で庭に出ていて見つけてしまつたのでは今はこれまでというので駿太郎をもやつつけ、来た道から再び外へ逃げ出したとこういうわけだね」
「まあそうだな。それに現にあの塀に足跡があつた以上はね」
「これ
前へ
次へ
全283ページ中100ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング