見すまし、台所に行って庖丁でまずその身体を二つに切りさきました。それからもっと細かくきざんで、ストーブで燃してしまうつもりだったのです。この仕事を私は便所の手洗の所ではじめました」
 この自白は全部が事実とは思われない。何故ならば、発見された肉片は全部をよせてもまだ、小児の身体を完成しなかったから。即ち四つのある特殊の器官がとうとう見出せなかったのである。
 九月八日、プラースラロケットでこの若者は死刑を執行された。
 彼も殺人狂の一人である。而も法律上の責任は負うべしと認められたわけである。

     三、ソレイラン事件

 ソレイランの事件もメネルーの事件と殆ど同じようであるが、此の事件の主人公は、仏国大統領の特別な仁慈により死刑を免れる事が出来たが、此の特別な仁慈は、輿論の反対を非常に惹起して大統領ファリエールは大に人気を失うに至った。
 一九〇七年一月三十一日リュー・サンモール七六番地に住んでいたエルベルディング夫人は、アルベール・ソレイランという二十六歳になる男と往来で偶然に出会った。此のソレイランという男は相当に有福な家の息子で、エルベルディングはそこの家に家政婦としてつかわれていた事があったのだった。
「私の妻がバタクランのコンセールに行くのですが如何です。お宅のマルテさんも一緒にいっては?」
 ソレイランはいきなりこう云ったのである。
 マルテというのは、エルベルディングの娘で当年とって十一歳であった。
 はじめは、エルベルディング夫人はこれを拒んだけれども、ソレイランはしきりとうながし、自分の妻も亦マルテもきっとよろこぶに違いない、と主張した。
 母親もよく考えて見ると、自分の娘をこの男に托す事を特に拒絶する理由が発見出来なかった。殊にソレイランの子供の時代からよく知っている彼女の事だ。安心してとうとうマルテを彼に托し、バルコニーから「オー、ルヴォアル」とよびかけて送り出してやったのであった。
 すると午後五時にアルベール・ソレイランが一人でエルベルディングの所にやって来て、マルテがもう帰って来たかと質問した。
 驚いて母親は云った。
「いいえまだ。だけど、どうしたんです」
「僕らはバタクランに行ってたんですよ。中々面白かった。がマルテがいつのまにか見えなくなっちまったんでね」
 之をきいて母親はさっそくバタクランにかけつけて見ると、丁度今終った
前へ 次へ
全12ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング