ども、奉行という御役目で御出会いになるいろいろの事件の為に、その御考えのもち方は今まで可なり御変りになったように存ぜられるのでございます。
二
初め私が御奉行様を存じ上げました頃は、只今も申し上げました通りほんとうに御利発で御聡明である上に、御自分というものを御信じになることが大層御強くいらっしゃいました。
あの頃の御奉行様の御裁きと申すものは、どれもがほんとうにてきぱきとして、胸のすくようなもの計《ばか》りでございました。そうして、御奉行様の御名は日に日に、旭のように上り、それと並んでずんずんと御出世もなされたのでございました。
「自分のする事は間違いはないのだ。自分のする事は凡て正しいのだ」
斯ういう心持が常に働いて居たためああした華やかしい御裁きがお出来になったのだと存じます。
貴方様方も御承知の事でございましょうが、一人の子供を二人の母親が争いました時に御奉行様が御執《おと》りになった御裁きなどは誰もが皆感心したものでございました。
「真実の母親なればこそ、子供が泣いた時に手を放したのだ。それにもかまわず引きずるのは真の母親ではない。偽者《いつわ
前へ
次へ
全30ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング