、蓉子が目をさましたので俄然《がぜん》居直りと変じ出刃庖丁をもって同人を脅迫したところ、同人は驚愕《きょうがく》のあまり大声をあげて泥棒泥棒と連呼し隣室に就寝中の竜太郎氏に救いを求めたので、賊は狼狽《ろうばい》の極、蓉子に飛びかかりて馬乗りとなり両手をもって同人の頸部《けいぶ》を絞めつけついに同人を窒息せしめた。この騒ぎに隣室より飛び出した竜太郎氏は護身用のピストルを向けて一発を賊の右胸部に、つづいて一発をその右額部に撃ち込んで即死せしめたのである。なお賊の身元、その他については目下詳細取調中である。
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次の日の新聞には左のごとき記事が掲げられている。

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○酒井蓉子殺し犯人は強盗前科四犯の兇漢と判明[#「○酒井蓉子殺し犯人は強盗前科四犯の兇漢と判明」は2段階大きな文字]
 ――大川氏の行為は正当防衛[#「大川氏の行為は正当防衛」は1段階大きな文字]――
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昨朝文士大川竜太郎氏方に兇漢侵入し大惨劇を演じたことは既報の通りであるが、兇漢の指紋により果然同人は強盗前科四犯あり目下××刑務所に服役中の痣
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