僕が外国にいた友から贈られたピストルを取り出して、弾丸《たま》を調べはじめたのだ。
山本、君は人を殺すということがいかに難しいことか、少しでも考えてみたことがあるか。あらかじめ計って人殺しをするということは悪魔でない限りできるものではない。僕はあの夜あれだけの決心を堅め――おまけにその決心までくるのに二年余もかかったんだが、その深みある決心にもかかわらず、僕がピストルを手にとった時、すでにその決心がにぶりはじめたのだ。
今でなくてもいい。あしただっていい。こう考えて僕はピストルをおいた。そうしてしばらく悶《もだ》えたが、やはりピストルを手にとることができず、それを枕元においたまま床に入ってしまったんだ。
非常に亢奮した後には非常な疲労がくる。夜半の一時頃に僕はすっかり疲れ切って眠入《ねい》ってしまった。どのくらい眠入ったかおぼえはないが、不意にささやきのような声がきこえる。なかば起き上った時、隣室から明かに男の声がきこえた。
僕は全身の血が一時に燃え上るように感じて、いきなり枕元のピストルをとると、できるだけひそかに襖《ふすま》の端をあけてみた。
いくらあわてていたとは云え、
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