師《すえし》は自らの手で焼いた
妙《たえ》なる器を再び地上に投げつける。
44[#「44」は縦中横]
せっかく立派な形に出来た酒盃なら、
毀《こわ》すのをどこの酒のみが承知するものか?
形よい掌《て》をつくってはまた毀すのは
誰のご機嫌《きげん》とりで誰への嫉妬《しっと》やら?
45[#「45」は縦中横]
時はお前のため花の装《よそお》いをこらしているのに、
道学者などの言うことなどに耳を傾けるものでない。
この野辺《のべ》を人はかぎりなく通って行く、
摘むべき花は早く摘むがよい、身を摘まれぬうちに。
46[#「46」は縦中横]
この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり、
帰って来て謎《なぞ》をあかしてくれる人はない。
気をつけてこのはたごやに忘れものをするな、
出て行ったが最後二度と再び帰っては来れない。
47[#「47」は縦中横]
酒をのめ、土の下には友もなく、またつれもない、
眠るばかりで、そこに一滴の酒もない。
気をつけて、気をつけて、この秘密 人には言うな――
チューリップひとたび萎《しぼ》めば開かない。
(48)[#「(48)」は縦中横]
われは酒屋に一人の翁《おきな》を見た。
先客の噂《うわさ》をたずねたら彼は言った――
酒をのめ、みんな行ったきりで、
一人として帰っては来なかった。
49[#「49」は縦中横]
幾山川を越えて来たこの旅路であった、
どこの地平のはてまでもめぐりめぐった。
だが、向うから誰一人来るのに会わず、
道はただ行く道、帰る旅人を見なかった。
50[#「50」は縦中横]
われらは人形で人形使いは天さ。
それは比喩《ひゆ》ではなくて現実なんだ。
この席で一くさり演技《わざ》をすませば、
一つずつ無の手筥《てばこ》に入れられるのさ。
51[#「51」は縦中横]
われらの後にも世は永遠につづくよ、ああ!
われらは影も形もなく消えるよ、ああ!
来なかったとてなんの不足があろう?
行くからとてなんの変りもないよ、ああ!
52[#「52」は縦中横]
土の褥《しとね》の上に横《よこた》わっている者、
大地の底にかくれて見えない者。
虚無の荒野をそぞろ見わたせば、
そこにはまだ来ない者と行った者だけだよ。
53[#「53」は縦中横]
人呼んで世界と言う古びた宿場は
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