字下げ]麻幹畑[#「麻幹畑」は中見出し]

お竹 十七
麻幹畑《あさがらばたけ》

麻の葉でさへ
枯れればさびし

お竹 十七
麻幹畑

なじよにしましヨと
ひとりで泣いた。


[#1字下げ]おけら[#「おけら」は中見出し]

左官が 左官が
蔵建てた

おけらが三匹
出て啼いた

大工が 大工が
家建てた

お月さん ぽかんと
眺めてる。


[#1字下げ]子安貝[#「子安貝」は中見出し]

渚の 渚の
子安貝

波 どんど
波 どんど
子安貝

今日から ふたりで
暮しませう

お前も
わたしも
子安貝。


[#1字下げ]づぶりこ[#「づぶりこ」は中見出し]

づぶりこ づぶりこで
日ばかり暮す
今朝も とつぷりこと
づぶりこで寝てる

「起きてくれろ」と
あぐらこで言へば
びかん びかんと
眼ばかり出した

壁の隙間さ
天日《てんぴ》のさすに
「外は風だ」と
づぶりこで寝てる。


[#1字下げ]一軒家[#「一軒家」は中見出し]

姉は 男に
だまされた
野中《のなか》の一軒家の
きりぎりす

機場《はたば》に売られた
妹は
とんがらがん とんがらがん
暮してる

姉は 男に
だまされた
野中の一軒家の
きりぎりす

青い芒《すすき》に
降る雨は
ちんちりりん ちんちりりん
降りました。


[#1字下げ]武蔵野[#「武蔵野」は中見出し]

武蔵野に咲く
一輪の
花はやつれて咲きました

「君は 君は」と
武蔵野の
草の中から咲きました

わたしの胸に
恋の日の
花は再び咲くでせうか

草の中から
武蔵野の
花はやつれて咲きました。


[#1字下げ]かなかな蝉[#「かなかな蝉」は中見出し]

初恋《はつごひ》でせう 背戸山で
かなかな蝉が
鳴いてます

別れて遠き君ゆゑに
「別れました」と
言ひました

初恋でせう 背戸山で
かなかな蝉が
鳴いてます。


[#1字下げ]おかよ[#「おかよ」は中見出し]

去年 七月
木小屋の 背戸だ

月もお暈《かさ》を
召してた晩だ

草の露さへ
きらきらしてる

泣いて別れた
忘りヨか おかよ。


[#1字下げ]白露虫[#「白露虫」は中見出し]

かげろふの
あしたはまたぬ命だと
たよりは来たが
どうしよう

ひとつにはまたひとつには
かすかに白き
花でせう

しよんぼりとまたひとつには
さびしく咲いた
花でせう
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