黄楊《つげ》の櫛
雁《かり》が啼くから
あれ聞けと
城下通れば
馬が言ふ。
[#1字下げ]夕焼[#「夕焼」は中見出し]
山のふもとの
遠方《をちかた》は
雲雀《ひばり》囀《さへづ》る
青野原
声は遙に
夕暮の
空はおぼろに
花ぐもり
雲雀囀る
遠方の
山のふもとの
大空は
夕焼小焼の
日が暮れて
桜は真赤に
みンな焼けた。
[#1字下げ]河原柳[#「河原柳」は中見出し]
南風吹け
麦の穂に
河原柳の
影法師
最早今年も
沢瀉《おもだか》の
花はちらほら
咲きました
待ちも暮しも
したけれど
河原柳の
影法師
山に父母
蔓葛羅《つたがつら》
何故にこの頃
山恋し
藪に茱萸《ぐみ》の木
野に茨
茱萸も茨も
忘れたが
藪の小蔭の
頬白は
無事で居たかと
啼きもした
山に二人の
父母は
藪の小蔭の
頬白は
河原柳の
花も見ず
南風吹け
麦の穂に。
[#1字下げ]鳴子引[#「鳴子引」は中見出し]
淀の河原の
雨|催《もよ》ひ
荻の真白き
穂はそよぐ
いそげ河原の
川舟に
菅《すげ》の小笠の
鳴子引
河原|鶸《ひは》鳴く
淀川の
小笠かづぎし
花娘
河原|蓬《よもぎ》の
枯れし葉に
かへる小舟の
艪《ろ》が響く
唄へ 花妻
花娘
淀の川舟
日が暮れる
菅の小笠に
三日月の
眉をかくせる
鳴子引。
[#1字下げ]烏[#「烏」は中見出し]
風に吹かれて
そよそよと
山の枯葉は
皆落ちた
木曾に木|榧《がや》の
実は熟す
かへれ信濃の
旅烏
茶の樹畑の
豆食ひし
鳩は畑の
どこで啼く。
[#1字下げ]みそさざい[#「みそさざい」は中見出し]
わたしの姉さん
篠藪で
さつさ お背戸の
鷦鷯《みそさざい》
誰にも言はずに
ゐてお呉れ
去年の暮にも
篠藪で
さつさ お背戸の
鷦鷯
誰にも言はずに
ゐてお呉れ。
[#改段]
荒野[#「荒野」は大見出し]
[#1字下げ]荒野[#「荒野」は中見出し]
花と云ふ花は咲けども
妻と云ふ
花は咲かない
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