曼陀羅華」は大見出し]
何処から種が飛んで来たのか
畑の中に
曼陀羅華《まんだらげ》が生えてゐる
百姓は
抜いて捨てようと思つてゐる中に
夏が来た
曼陀羅華は
葉と葉の間《あはひ》から
白い花を咲かうとしてゐる
百姓は
花なんか咲かせて置くもんかと
独言《ひとりごと》を云つてゐた
たうとう秋になつて了つた
曼陀羅華の花は
すつかり実になつてゐる
百姓は憤つて――手をかけると
皆んな実は畑の中へ
ぱらぱらはぢけて飛んだ
[#1字下げ]二人[#「二人」は大見出し]
歳の暮れも押し迫つて来てゐるのに
間借りしてゐる二人は
これからさき、どうすればいいのか
途方にくれてゐる
二人は
小さな火鉢を中にして
痛切に――お互に――暮しませうと云つてゐるが
矢張り涙にくれてゐる
二人は
昨夜《ゆふべ》も、同じやうな夢を見た
銀貨だの、米だの、肉だの、炭だの
凩《こがらし》は屋根を鳴らして吹いてゐる
[#1字下げ]家鴨[#「家鴨」は大見出し]
うしろの田の中に家鴨の子が
田螺《たにし》を拾つて喰つてゐると
雁《がん》が来た
一所に連れてつてやるから
勢一杯|翼《はね》をひろげて飛んで見ろと
雁が云つた
家鴨の子は一生懸命飛んで見たが
体が重くてぼたりぼたり落ちて了ふ
雁は笑ひ笑ひ飛んで行つて了つた
家鴨の子は泣き泣き小舎《こや》の前に帰つて来た
親家鴨は
桶の中へ首を入れて水を呑んでゐた
子家鴨は
別な良《い》い翼をつけて呉れろと
大声で泣いてゐる
親家鴨は仕様なしに
そつちの方を向いて
聞えぬ振りをしてゐた
[#1字下げ]深淵[#「深淵」は大見出し]
ヨーイトマーケ
ヨーイトマイタ――と深川の道路ツ端《ばた》に
印袢纒《しるしはんてん》を着た
女の声が唄つてゐる
砂塵を捲いてタクシーは
轣き殺すほどの勢ひに――人々はどやどやと
街路樹の下に
右に左に避《よ》けてゐる
下町の深淵の中に沈んでゐる
力のぬけた、だるい顔
ガソリンのむかつく臭気《にほひ》嗅ぎながら
女の声は唄つてゐる
灰色の中に住んでゐる LABORER の――声は次第に疲れてゐた――印袢纒の女の声は疲れてゐた
冬の日は
一間《いつけん》ばかり残つてゐる
[#1字下げ]生姜畑[#「生姜畑」は大見出し]
枯れ山の芒ア穂に出てちらつくが
帯に襷にどつちにつかず
赤い畑の
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