くる日も、おきいちやんは遊びに来ませんでした。
お母さんは『喧嘩したんだらう』と幾度訊いても、そのたんびおたあちやんは、頭を横に振つてゐるばかりでした。
そのうちに、おきいちやんが病気で寝てゐると云ふことを近所の人から聞きました。
おたあちやんのお母さんは『見舞にいつておいで』と云つても、おたあちやんは、いつも気のない返事をして、却々《なかなか》行きさうにもしませんでした。
おたあちやんは、今は、あの日のことが沁《し》み沁《じ》み後悔されて『悪いことをした』と心で思ふやうになりました。それがだんだん嵩[#「嵩」は底本では「蒿」]《たかま》つて来て濁つてゐたおたあちやんの心は、一日一日と澄んで来るやうになりました。おたあちやんは、三又|土筆《つくし》のことをお母さんに話して了《しまほ》ふかと思ひましたが、それでは却つてお母さんに心配をかけるだらうと、一人で胸をいためて居りました。
幾日かたつうちに春もすぎて、夏が来ました。今年も湖の上に虹の橋のかかる頃となりました。
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今年も虹は
湖《こすゐ》の上さ
太鼓橋かけた
去年も虹は
湖の上さ
太鼓橋かけた
昔も 今も
湖の上さ
太鼓橋かけた
湖の上さ
百間幅の
太鼓橋かけた
[#ここで字下げ終わり]
今日も、村の子供達は、湖の岸に立つて唄つて居りました。
(五)
それから、幾日かたつて、おたあちやんとおたあちやんのお母さんとが、おきいちやんの家の前を通りました。二人は吃驚《びつくり》しました。家には戸が締つてゐて、もう幾日も人の住んだやうな気配が見えませんでした。どうしたのかと思つて近所の人達に訊いて見ますと、おきいちやんの家は今から一月も前、湖の向ふの村へ越して行つたと云ふことでした。
なほ、近所の人達の話によりますと、おきいちやんは、春からずつと病《わづら》つてゐましたが、近頃になつて、どうにか治つたかと思ふと、こんどは伯母さんが病《わづら》ふやうになりました。
伯父さんは歳を老《と》つてゐるし、もともと貧乏な家ですから、どうすることも出来なくなつて、病みあがりのおきいちやんは、湖の向ふの村の機場《はたば》へ機織工女に売られることになつたのです。それと同時に伯父さん伯母さん達は、他《よそ》の村へ越して行つたと云ふことでした。
おたあちやんのお母さんは『何んと云ふ
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