た。そして云ひました。
『土筆を採りに行つたら、気をつけておいでよ、三又土筆と云つて一つの茎から三つの土筆が出てゐるのがあるかも知れないからね。そんなのは滅多にないのだけど、ひよつとしたらあるかも知れないよ、昔から三又土筆を見つけた人は、出世すると云つてゐるから探して御覧』
 出世すると云はれて、二人の大《おほき》くみひらいた眼には、一層喜びの色があらはれました。

『わたし、なんだか三又土筆てのを見つけるやうな気がしてよ』とおたあちやんは行く途々《みちみち》云ひました。
『さう、わたしもそんな気がするわ』
 おきいちやんも負けん気になつて云ひました。
『ぢや、二人とも見つけるのね』
『そして二人共出世するのよ』
『オホホホオホホホ』
『オホホホオホホホ』
 二人はたわいもなく笑ひ興じながら村境を湖の方へ流れてゐる小川の堤《どて》へまゐりました。そこから二人は堤に添ふて、はしやぎながら土筆《つくし》を採つてゆきました。
 一丁ゆき、二丁ゆくうちに、いつの間にかだんまりになつて、先へ先へと土筆を採り採りゆきました。
 お昼頃になると、二人は堤の上へあがつてお弁当のお握飯《むすび》を出して食べました。
『三又土筆て、ほんとにあるのか知ら、おきいちやんどう思つて』
『わたしは、あると思ふわ』
『さう、わたしなんだか判らなくなつてよ』
『だつて、まだこれからだもの』
 お互に摘んだ土筆を見せ合つたりなんかして、又二人は摘みはじめました。
 さうして、日が余ツぽど西へ傾く頃までには二人の小さい籠は土筆で一杯になりましたが、見つけたいと思ふかんじんの三又土筆は見つかりませんでした。
 おたあちやんは、もう飽き飽きして『帰りませう、帰りませう』と云ひましたが、おきいちやんは『もう鳥渡《ちよつと》、もう鳥渡』と云つて矢張り摘んでゐました。
『わたし、もう草足《くたびれ》たんだもの』とおたあちやんは摘むことをやめて立つて見てゐました。すると、おきいちやんは、
『おたあちやん、あつてよ、あつてよ、ほら三又|土筆《つくし》だわ』と云つて、うれしさうに叫びました。

  (三)

 おきいちやんが見つけた三又土筆を見て、おたあちやんは
『まあ』と云つて、あとの言葉が出ませんでした。そして口惜さうな顔をして、おきいちやんの顔を見ました。おきいちやんは、あんまりのことに吃驚《びつくり》して、気
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