らであります。まことに子供らしいのが童謡でありますから、世にいふ普通の文学とは変つてをります。ここに童謡の童謡たる所以があるのであります。
 さて、この童謡について言ふならば、「赤子は大人の如し」と昔の聖人が言つてゐますがここに言ふ赤子とは赤ン坊の意味でなく純真の心の持主の意味であります。又大人と言つたのも単におとなの意味でなく人々の手本となるべき人の意味であります。今でも目上の人に対して何々尊大人とか書くのと尊敬して書くのと同じ意味であります。要するに「赤子は大人の如し」と言つたのは子供の心には人々の手本となるべき尊い心があると言ふ意味になるのであります。その外にも昔の聖人と言はるる人は言葉が違つてゐても同じ純真さを説いてをります。昔から子供の心は誰でも純真であることがうなづかれます。
 童謡を作るには仮へば水の低きに流るるやうなもので、すらすらと書かれるのが本当です。考へ考へ書かれたのは、すらすらとなりません。児童の教育に差支へのない限りはこの点に指導者は注意を要すべきことであります。
 童話と童謡とは同じ童心から生まれるのでありますが、童話はお話であつて、童謡は歌でありますから、お話と歌の違ひがありますが、どちらも児童のものであります。歌であるだけ童謡は言葉の調子旋律に重きをおきます。どんなことでも童謡になると思ふのは、違ひます。童謡になるものと、ならないものとあります。童謡にならないものを童謡にしようと思ふと苦心を要します。苦心をした上によくは書けないのであります。この点も指導者はよく考へる必要があると思はれます。
 輝き渡る日本の国です。国民性の純真無垢の児童の心を培ふことが、将来のためにも、又、郷土色を多少でも養ふことがわれわれの努めであります。

  昭和十七年五月一日
[#地から1字上げ]野口雨情



底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日第1版第1刷発行
底本の親本:「朝おき雀」鶴書房
   1943(昭和18)年2月28日刊
初出:年賀状「幼年倶楽部」
   1938(昭和13)年1月
   万歳さん「幼年倶楽部」
   1934(昭和9)年1月
   豆マキ「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年2月
   お離さま「コドモアサヒ」
   1933(昭和8)年3月
   森で啼く鳥「コドモノクニ」
   1934(昭和9)年4月
   桜と小鳥(原題 小鳥のお母さん)「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年4月
   田螺の泥遊び「幼年倶楽部」
   1934(昭和9)年8月
   ひよこ「幼年倶楽部」
   1938(昭和13)年3月
   雲雀と蛙「婦人子供報知」
   1931(昭和6)年6月
   燕の泥塗り「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年5月
   目高「幼年倶楽部」
   1933(昭和8)年4月
   沼の鮒釣り「幼年倶楽部」
   1937(昭和12)年6月
   螢狩り「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年6月
   どんと波「コドモノクニ」
   1932(昭和7)年9月
   オハナバタケ「ツバメノオウチ」
   1932(昭和7)年8月
   お風呂「幼年倶楽部」
   1938(昭和13)年8月
   お池つくり「幼年倶楽部」
   1937(昭和12)年8月
   すつぽん亀の子「幼年倶楽部」
   1934(昭和9)年12月
   七夕(原題 タナバタマツリ)「セウガク二年生」
   1933(昭和8)年7月
   兎の綱引き「しやぼん玉」
   1932(昭和7)年10月
   豚のお鼻「幼年倶楽部」
   1937(昭和12)年3月
   月夜の竹やぶ「童謡」
   1933(昭和8)年3月
   あわてた烏「コドモノクニ」
   1933(昭和8)年11月
   鳴子「幼年倶楽部」
   1932(昭和7)年11月
   豆腐屋さんのラツパ(原題 とうふやさん)「幼年倶楽部」
   1932(昭和7)年10月
   おしやべり四十雀「童謡と童話」
   1933(昭和8)年5月
入力:川山隆
校正:noriko saito
※「*」は注釈記号です。底本では、「※[#「さんずい+兆」、第3水準1−86−67]児河」にかかるルビ「ドルガ」の上に、ルビのように付いています。
2010年4月18日作成
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