き》な声で続けざまに幾度も云ひましたが、やつぱり黙つて返事をしませんでした。今度は一人一人、
『今日は、今日は。』
『遊びませう、遊びませう。』
と云つて歩きましたが、誰一人相手になつてくれてがありませんでした。
 妹のお紺も、
『今日は、今日は。』
『遊ばせて下さい。』
と云って歩きましたが、皆な聞えない振りをして、後を向いてしまひました。
 仲の悪い二人の姉妹《きやうだい》は、ひとりぼつちになつて、ぽかんとして見てをりますと、向ふの丘の上に、大勢の子供達が手をとり合つて楽しさうに遊んでをりました。姉のお杉は、そこへ行つて仲間に入れて貰はうと、丘の下までゆきました。妹のお紺も、一緒に遊ばせて貰はうと、丘の下までゆきましたが、二人は足がすくんで、いくら一生懸命になつても、丘の上へあがれませんでした。

[#ここから2字下げ]
姉と生れて 妹となつて
仲が悪くて 椋鳥《むくどり》さんに
暗い一本道 送られました

ここは仲よい 姉妹ばかり
仲が悪くば のぼられませぬ
足がすくんで のぼられませぬ
[#ここで字下げ終わり]

と、丘の上で、大勢の子供が謡《うた》ふ唄が聞えました。二人の姉妹《きやうだい》は、急に悲しくなつて、わツと地べたへ泣き伏してしまひました。
 すると、椋鳥《むくどり》が飛んで来て、
『かうすればあがれるんだよ。』
と二人の手を握らせてくれました。二人は不思議にも楽々と丘の上へあがることが出来ました。

[#ここから2字下げ]
いつも楽しく 遊びたければ
姉と妹と 仲よくなされ
[#ここで字下げ終わり]

と、お杉とお紺の手をとつて、丘の上の子供達は謡《うた》[#ルビの「うた」は底本では「むく」]つてくれました。椋鳥もうれしさうに、
『いいかい、忘れてはいけないよ』
と二人の姉妹に、また白い布の目隠しをして、元来た暗い空洞《うつろ》の一本道を山の神様のところへつれて戻りました。
山の神様は、
『それで結構結構。』
とおつしやつて、大層およろこびになられました。
 二人は生れかはつたやうに、ほんたうの仲のよい姉妹になつて、お母さんと三人で、椋鳥におくられて、お家《うち》へ帰つて来ました。



底本:「定本 野口雨情 第六巻」未來社
   1986(昭和61)年9月25日第1版第1刷発行
初出:「小学女生」
   1921(大正10)年8月号
入力:林
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング