する事の出来る焔が絶えず心の底に燃えてゐたから、それがその作品に現れてきてゐるので、もし石川にかうした心の焔がなかつたならば、その作品は死灰《しかい》の如くなつて、今日世人から尊重されるやうな作品は生れて来なかつたかも知れない。
 いはば石川の釧路時代は、石川の一生中一番興味ある時代で、そこに限りなき潤ひを私は石川の上に感ずるのである。
 このことを石川が地下で聞いたならば苦笑をもらすか、微笑をもらすか、石川のことであるから多分苦笑をもらし乍ら煙草を輪に吹いてだまつてゐるだらうとそれが私の目に見ゆるやうに感じられてくる。



底本:「定本 野口雨情 第六巻」未來社
   1986(昭和61)年9月25日第1版第1刷発行
初出:「週間朝日」
   1929(昭和4)年12月8日号
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2003年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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