は消えて
幼きものよと子鼠の
幾ともがらは忍び来ぬ
されども家人《ひと》は知らでありき

雛《ひえ》さまの雛さまの
鼻かぢられて哀れなり
緋桃の花は散りけりと
次の朝《ひ》下婢《はしため》あはて告げぬ


[#1字下げ]めくら魚[#「めくら魚」は中見出し]

日の暮方に
空見れば
いつも敢果《はか》ない
事ばかり

すすき尾花は
穂に咲けど
秋の花ゆゑ
淋しかろ

恋はすれども
恋わすれても
めくら魚で
阿漕《あこぎ》が浦よ


[#1字下げ]乙女のひとり[#「乙女のひとり」は中見出し]

朝見れば東の海に
紋波《あやなみ》の低きはあれど
浮雲の白きも見えず

海|鴎《どり》は沖に飛べども
わたつみの彼方《かなた》の岸に
羊《しつち》飼ふ童もありや

あかつきの東の浜に
朝空のみ神とばかり
さまよへる乙女のひとり

うら若き身にありながら
黒髪は裳裾《もすそ》にかかれ
徒《いたづら》に嘆くは止《や》めよ

今朝《けさ》見れば東の海の
天地《あめつち》に雲はなけれど
又しても乙女はひとり
さまよへるかな


[#1字下げ]十二橋[#「十二橋」は中見出し]

ほんに潮来《いたこ》へ
おじやるなら
佐原|来栖《いけす》に
お茶屋がござろ

姉さ召しませ
のう姉さ
花の乙女《かむろ》が後朝《きぬぎぬ》の
涙の雨が降るぞえの

一夜《いちよ》かりねの
手枕に
かりの妻ぢやと唄はれて
明日は何方《いづく》の何処ぢややら

皐月《さつき》照れ照れ
菖蒲《あやめ》も植ゑよ
お女郎《じよろ》見やんせ十六島は
雨の降るのに花が咲く


[#1字下げ]闇の韻[#「闇の韻」は中見出し]

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月なき秋の夜なぞ茄子枯れたる畑中に鳴く虫あり世人俗に蚯蚓の鳴くなりと言ふ
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あはれ蚯蚓《みみづ》とあざけれど
背戸に人待つ少女子《をとめご》が
首うなだれて闇の夜に
聞くよ淋しき汝《なれ》が唄

見よ閨《ねや》の戸の夕間ぐれ
あふぐになれし星の海
されど心の香《か》に酔うて
よしなきことを思ふかな

闇の潮《うしほ》に沈みたる
静夜《しづよ》の夢はさまさずも
夜鳴く虫のかなしさに
忘れがたきがあればなり

春の名残の
  時の上に
紅き花こそ
  惜みたれ
夏の流れの
  行く水に
真白き花も
  咲きに
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