花ざかり
桜は咲けど故郷《ふるさと》の
月は朧《おぼろ》に川しぶき
花は咲けどもちりちりに
淀の川瀬の水車《みづぐるま》
姉はよけれど妹に
鬼のお主《しゆう》の杢兵衛《もくべ》さん
とても暇《いとま》はくださらず
それでお主と申すより
さつさ行きませう
あの山越えて
淀は故郷
花の里
[#1字下げ]百舌子[#「百舌子」は中見出し]
手をこまぬきて逍遙《さまよひ》の
牛の牧場《まきば》に日は暮れぬ
夕《ゆふべ》の声の譜に合はず
林の中にひびきあり
松の林のあちこちに
耳傾けて佇《たたず》めば
そは鵙《もづ》の子のたはぶれて
小鳥《とり》の音を鳴く狡猾者《わるもの》よ
汝《なれ》は野の鳥山の鳥
野の朝山の夕間暮《ゆふまぐれ》
小鳥を覗《ねら》ふ蛇の子の
げに横着者《しれもの》よ鵙の子よ
[#1字下げ]花壇の春[#「花壇の春」は中見出し]
土やはらかく耕して
千草の種を培《つちか》へば
春風いまだ吹かぬ間に
芽こそ細くも萠ゑにたれ
やがて春風そよそよと
吹けば真昼の日もゆるく
夕《ゆふべ》となれば白露の
清き匂も満ち渡る
月を重ぬるはや三月
日に日に草ははぐまれて
葉ゆらぐ陰《かげ》にさまざまの
小《ちさ》き蕾も見ゆるかな
ある夜春雨草の葉の
緑いろよくそそぎしが
あくるあしたの夕《ゆふべ》より
つぼみは花と咲きにたり
花壇の土の美しく
今こそ花は開きたれ
春の日燃ゆる炎陽《かげらふ》に
花の露の香《か》ゆふべも消ゑじ
[#1字下げ]恋の娘は何誰でござる[#「恋の娘は何誰でござる」は中見出し]
お竹お十七
暮の春
泣いて別れた
事もあろ
三十九でさへ花ぢやもの
お十七ではまだ蕾
花の蕾の身であろに
なんで浮世が嫌ぢややら
ほんに去年のわづらひは
町のお医者を頼まれ申し
お医者よけれど嫁さに行かば
恋の娘と名に立てられむ
恋の娘は何誰《どなた》でござる
お釈迦さまではあるまいし
甘茶にするのは
罪ぢやもの
お竹お十七
暮の春
泣いて別れた
事もあろ
[#1字下げ]踏青[#「踏青」は中見出し]
霞の幕はたなびきて
春は土佐絵の山桜
君よ青きを踏み玉へ
いざ野に出でて踏み玉へ
春のよき日は麗《うららか》に
こがねの雲の日は燃ゑて
野にも山にも流《ながれ》にも
百千《ももち》の鳥はさけぶめり
君よ青きを踏み玉へ
いざ野に出《
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