はつらかろ
待たるる身より
伏木港《ふしきみなと》の
船頭さん達《だち》よ
[#1字下げ]蘆枯れ唄[#「蘆枯れ唄」は大見出し]
蘆が枯れたら
どこで逢ひませう
前の河原は
石まで枯れるし
蘆が枯れたら
どこで逢ひませう
裏の畑は
土まで枯れるし
蘆が枯れたら
どこで逢ひませう
蘆の枯れ葉の
蔭で逢ひませう
[#1字下げ]おけらの唄[#「おけらの唄」は大見出し]
おけらの唄の
さびしさに
窓にもたれて
すすり泣く
まぼろし草《さう》も
コスモスも
花は昔の
ままで咲く
おけらの唄の
さびしさに
畳の上に
伏して泣く
[#1字下げ]鶫[#「鶫」は大見出し]
今日も鶫《つぐみ》が
丘に来て啼いた
おれも泣きたい 鶫の鳥よ
空は乳色に
また日が暮れる
死んで別れた
人ではないし
忘れようとて 忘らりよか
[#1字下げ]錆[#「錆」は大見出し]
窓の格子によりかかり
「いつまた来るの」と
泣く女
錆た庖丁の かなしくも
「はかない身だよ」と
さうか知ら
ただ明易い 夏の夜の
街はあかるい
青すだれ
磨《と》いでも磨いでも 庖丁の
錆は磨いでも
さうか知ら
[#1字下げ]夕の月[#「夕の月」は大見出し]
お仲姉《なかあね》さま
畑の中で
しやなりしやなりと
麦踏みしてる
雁《かり》は帰るし
夕《ゆふべ》の月は
※[#「木+國」、第3水準1−86−6]林《くぬぎばやし》の上から
出てる
つまらないよと
涙で言《ゆ》ふた
お仲姉さま
丸顔だつけ
[#1字下げ]スイッチヨ[#「スイッチヨ」は大見出し]
スイッチヨスイッチヨと
大阪の
街のはずれで鳴くスイッチヨ
姉は筑紫の
長崎へ
妹《いもと》も筑紫の
長崎へ
スイッチヨスイッチヨと
蔦の葉の
上にとまつて鳴くスイッチヨ
[#1字下げ]おけら[#「おけら」は大見出し]
左官が 左官が
蔵建てた
おけらが三匹
出て鳴いた
大工が 大工が
家建てた
お月さん ぽかんと
眺めてる
[#1字下げ]女工唄[#「女工唄」は大見出し]
雨の降る日は
雨だれ
小だれ
何《な》にも恋しくないが
公休日が恋し
空の弁当箱
雨だれ
小だれ
腹の減るたび
故郷《くに》の親思ふ
いやな監督さんだ
雨だれ
小だれ
何にも恋しくないが
公休日が恋し
かかれかかれと
モータが廻る
なにもかかりませうか
雨だれ
小だれ
[#1字下げ]釜山にて[#「釜山にて」は大見出し]
牧《まき》の島から
対馬《つしま》が見ゆる
最早対馬も
春だろに
海にや海霧
朝から立ちやる
対馬見るなの
霧ぢややら
[#1字下げ]鼬[#「鼬」は大見出し]
鼬《いたち》ア騒ぐから
背戸へ出て見たりや
烏ア河原で
水浴びしてた
山の頂上にや
薄雲かかる
今夜 山から
雨ア降るか
[#1字下げ]娘と劉さん[#「娘と劉さん」は大見出し]
[#2字下げ][#中見出し]※[#ローマ数字1、1−13−21][#中見出し終わり]
娘
劉《リウ》さん
赤ん坊《ぼ》が生れたならばどうしませう
何処《どこ》へたのんで育てませう
劉
ワタシ ワカラナイ アナタ スル ヨロシー
娘
横浜の叔母さん所《とこ》へ遣りませう
新しい一身《ひとつみ》の一《ひとつ》も着せて遣りませう
[#2字下げ][#中見出し]※[#ローマ数字2、1−13−22][#中見出し終わり]
娘
叔母さんに断られたらどうしませう
劉
ワタシ クニ トホイ ワカリマセン
娘
悲しいけれど捨てませう
顔の見えない闇の晩
ミルクの管を哺《くく》ませて――公園のベンチの上に捨てませう
[#2字下げ][#中見出し]※[#ローマ数字3、1−13−23][#中見出し終わり]
娘
お月夜の晩であつたらどうしませう
お月夜が続いて居たらどうしませう
育てませうか捨てましよか
劉
ワタシ ニホン タツ アナタ タノム
娘
薄情な 薄情な 劉さん
思ひ切つて――悲しいけれど捨てませう
ベンチの上に青青と月がさしたら泣くでせう
わたしの顔をきつと眺めて泣くでせう
劉さん
劉さん
その時のわたしの心はどんなでせう
底本:「定本 野口雨情 第一巻」未来社
1985(昭和60)年11月20日第1版第1刷発行
底本の親本:「雨情民謡百篇」新潮社
1924(大正13)年7月14日刊
初出:紅殻とんぼ「婦人世界」
1924(大正13)年7月
捨てた葱(原題 葱)「日本詩集 一二二五版」
1925(大正14)年4月
青いすすき(原題 細いすすき)「婦人世界」
1924(
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