た。これ等のことを眞に決する爲には、第一、禹其人が實在の人物であるか、或ひは單に神話中の英雄に過ぎないか、もし實在の人物とするもその當時に果して文字があつたか、文字があつたとしても斯かる雄篇大作を爲すべき程文化が進んで居つたか、等の問題を決めなければならぬのであるが、これは支那の上古史全體に亙る問題であつて、單に禹のことのみを以て之を決めるのは甚だ不便である。今はそれ等の問題には餘りに觸れずして、專ら禹貢の内容に就いて、その中にある所の材料が果してどれ丈け信用すべきものであるかといふことを判斷し得らるゝ材料を提供して、この問題を研究する人の參考に供する丈けに止めて置かうと思ふ。
 禹貢が含んで居る材料は一、九州及び治水の本末、二、山川草木、三、土色、四、貢賦※[#「竹かんむり+匪」、読みは「ひ」、第4水準2−83−65、166−1]包、五、山脈、六、水脈、七、五服、八、四至、に分類することが出來る。然るにこの全體に就きて研究資料を集めるのは仲々困難でもあり隨分長篇を要することゝなるから、今はその中のある部分丈けに止めようと思ふ。
 第一は九州のことである。禹貢の九州は冀州、※[#「なべ
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