考へ他からも考へられてゐた、それで文侯之命が儒家の晉國に用ひられてゐた時の産物たることは想像がつく。それでは、甫刑が齊國の産物たることは如何といふに、それは小島君の最近に發表した贖刑の研究にも言はれてゐる所であるが、猶其他にも甫刑に含まれてゐる思想で齊國を代表したと考へられる證據がある。それはやはり魏源が書古微の甫刑發微で論じてゐる所である。曰はく
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禹稷皐陶三后佐唐虞、禹讓稷契及皐陶、堯舜之道、惟禹皐陶見而知之、此萬世所共聖、殷本紀述湯誥曰、古禹皐陶久勞於外、四涜已備、萬民乃有居、后稷降播農殖百穀、三公咸有功於民、故后有立、書序曰、皐陶矢厥謨、禹成厥功、帝舜申之、作大禹皐陶謨益稷、是三后自古論定、雖湯之興、不敢以契入三后而退皐陶也、乃甫刑忽易以伯夷降典折民爲刑、推爲三后、而皐陶不與、漢楊震孫賜遂以皐陶不與三后、恥拜廷尉之官、不知此甫刑之大繆也、堯時姜氏爲四伯、掌四嶽之祀、述諸侯之職、於周則有申甫齊許、[#ここから割り注]見※[#「山/松」、第3水準1−47−81]高詩毛傳[#ここで割り注終わり]國語史伯言姜爲伯夷之後、許爲大岳之胤、是甫侯之置皐陶進伯夷、代列三后者、私尊乃祖、假王命以寵先靈、穆王耄荒、誠哉其耄荒也、夫成天地之大功者、其子孫未嘗不淳耀惇大、唐虞夏商周而外、楚爲重黎祝融之後、贏爲伯益之後、而伯益實庭堅之子、禹薦益於天、孰謂大理官不列三后乎、史記秦之先始於大業、大業生大費、與禹平水土、大費佐舜調馴鳥獸、是爲柏翳、舜賜姓贏氏、索隱謂大業即皐陶、大費者伯益、即皐陶之子、又列女傳陶子生十五歳而佐禹、曹大家注、陶子即皐陶子伯益也、至皐陶之後、兼封英六、楚人滅六、臧文仲謂皐陶庭堅不祀忽諸者、猶周公之後自魯外、尚有凡蒋※[#「形」の「彡」に代えて「おおざと」、第3水準1−92−63]茅胙祭也、漢書古今人表只柏益一人、並無伯益柏翳分二人之説、甫侯自侈其家世、而天之所興、人力不與、伯夷姜氏之後、滅於陳田、卒不能與皐陶伯益爭衡、夫子以秦誓繼甫刑、知皐陶伯益之後、將繼稷契禹而代興也、惟王變而覇、道徳變而功利、此運會所趨、即祖宗亦不能聽其不自變、[#ここから割り注]書古微十一[#ここで割り注終わり]
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魏源は禹稷皐陶を三后とすることが定論であるのに甫刑が皐陶を退けて伯夷を入れたのは不都合であると言ひ、それは穆王の時に甫侯が勝手なことをしたのだと論じてゐる。然るにそれは看方の不完全な點があるので、實は禹稷皐陶を三后とするのも、禹稷伯夷を三后とするのも、つまり儒家の中で三后といふ者を立つる各の家學の相違である。即ち齊へ行つた儒家は齊の國の姜姓と關係ある伯夷を三后の一人とし、秦に行つた儒家は秦の先祖と認めらるゝ皐陶を三后に入れた差異であつて、是は孰れが正しく孰れが謬るとも言へない。唯禹稷伯夷を三后としたのは稷下の儒家の思想を表はし、禹稷皐陶を三后としたのは秦國へ入つた儒家の思想を表はしたまでゞある。尤も當時既に齊國は田氏で、姜姓の國は無くなつてゐるのに、稷下の儒家は何故姜姓の伯夷を入れる必要があつたかと云ふに、それは齊國は、田氏の代になつても其の崇拜する所は依然桓公管仲であつたからである。今日の管子は勿論田氏になつてから出來た書であるにも拘らず、桓公と管仲とを理想として書いたものに相違ない。孟子が公孫丑に對して子は誠に齊人なり管仲晏子を知るのみと言ひし時も、既に田齊の宣王の時代であつた。かゝる點より考ふれば甫刑は齊國に對する曲學の意味より尚書に入つたものであることが明かに推測し得られる。若し詩の例より考ふれば、周頌の次に魯頌が編次せられてゐる事は、即ち孔子の所謂東周を爲すの思想を代表せる如く見ゆるのであつて、尚書に於ても其意味から言へば費誓で終るのが當然である。費誓は周公の子の伯禽が徐淮の夷を征伐したことを書いたもので、當時楚の國の如き夷狄の盛になつたものに對して膺懲の意を寓したものであるから、之を以て尚書の終とすることは、恐らく孔門に於ける最初の思想を代表するものと看て可からう。而して其後儒家が魏に用ゐられ、齊に用ゐられ、秦に用ゐらるゝに及んで、段々之に附け加へが出來たのが即ち今日現存する尚書の形であらう。殊に甫刑の如きは異つた觀察點から看ても、小島君の言ふ如く齊國で作られたものと見られるので、予の結論に一致することになるのは、尚書の編成の研究に有力なる資料を増すものと謂つて可い。
 さて又古書の多くは其の附加竄入のあることを豫期して觀察すれば、其末尾に附加されることが多いと同時に、首端に於ても亦附加せらるべきことを想像し得られる。そこで次に予が提供したい疑問は尚書の卷首の方の部分で、即ち堯典より洪範に至る各篇である。是も劉逢祿の考へた如く詩と比較すれば、そこに一の觀察點を見出すことができる。詩
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