うとしたことがあります。さういふことは趣味の復古的傾向でありますが、之と同時に其趣味を反映して居る所の畫なども同樣であります。樓閣山水といふことを支那で申しますが、樓閣を主とした山水は五代で終りました。繪畫で以て寫眞のやうに複雜な微細な技巧を現はすやうなことは、宋以後はしなくなりまして、さうしてその以後は自然の山水畫が盛になつて來た。それから不思議なのは醫者とか養生に關する方法さへも同樣であります。唐までの養生法は、何でも外部から藥で以て攻めつける養生法で、天子や貴族などが長生をしたいといふ、長生をしたいといふことは老人に至るまで女でも樂みたいといふやうなことでありますが、さういふことは皆藥を以てやらうとした。それで非常に刺戟の強い鑛物性の藥などを飮んで、それに中てられて死んだ天子などがよくあるのであります。宋以後はさういふことを止めまして、さうして内部の養生をして行かうといふ傾になりました。それで道教の方では養生の爲の藥を丹と申しますが、丹は長生不死の藥であります。宋以前は外丹の法でありましたが、宋以後は内丹の法といふものになつた。それは獨り按摩をするとか、體操みたやうなことをして養生をして、自分の身體の力で藥の力を假らずにやることを考へるやうになつた。それですから古い養生の書などに對する解釋が變つて來ました。昔の藥のことを書いた本でも、元來が外丹の意味であつたものを内丹の意味で解釋するやうになりました。宋の朱子が參同契考異といふ本を書いて居りますが、それは外丹を内丹で解釋した一つの著しい例であります。醫者の治療法でも變りまして、從來は對症療法で、病氣の在る所を藥で攻めて治すといふことでありましたが、宋以來の治療は温補と申しまして、病氣が起つた時は、一定の期間體力を補充して置くといふことを考へました。さうすると自然に體内で病氣に反對する抵抗力が増して來ますから、自然と病氣が治つて行く、さういふことを醫者の方で考へるやうになりました。斯ういふことが總て支那の民族生活があまり長く續いた爲に、反動的に古代生活に還らうとする傾が出來たのであります。
第三 には、又支那の特別の事情で、外の民族の侵入を受けて、一時金や元に支配された時代が出來て來ましたが、それが不思議に支那の民族の内部から出た所の復古的精神と偶然に出合ふ時代が來て、徽宗皇帝が庭園の中に禽獸を放し飼した時に、斯んなことをすると國が亡びると誰かゞいつたが、果して金に亡ぼされて一時野原になつたのでありますが、それと同じに、金とか元とかいふ民族の、野原に育つて來た生活が支那に注ぎ込まれて來た。その生活はその連中からいへば原始生活の森林の中から出て來るものでありますから、何でもないのでありまして、自分等は自分等の生活をその儘支那に持つて來てやるのであります。近代の清朝も同じことであります。併しながらそれは支那人から見れば復古的に原始生活に還ることになつて來て居ります。それで其生活の要素として、天然保存といふことに就て、動物の保存が出て來る、或は藥物など土地の名物の保存が出て來ます。それから動物の保存の爲に森林を保存することが出て來ます。これは餘程面白いと思ふ。動物の保存といふことはどういふことかと申しますと、昔は支那人は孔子樣なども裘即ち皮衣を着ましたが、漢代以後織物の發達から皮衣の用途がだん/″\薄らいで來て居つたのであります。それが野蠻民族の這入つて來た爲に、皮衣を着ることが大變高貴な生活といふことになりました。近代の清朝などもさうでありまして、官服として貂の皮を着ることがある。貂の皮が官服といふことになると貂を保存しなければならぬ。貂の保存をする爲に滿洲邊りの森林を保存しなければならぬ。蒙古とか滿洲人などは野蠻民族で、弓矢が長所であります。それが爲に矢が必要、矢には羽根が必要、それで鷹の羽根が大變必要であつた。その鷹の羽根を保存する爲にも亦滿洲邊りの森林を保存しなければならぬ。それで森林保存といふことが出來た。それから植物でありますが、昔から支那に人參といふ藥がありますが、今の山西地方には上黨人參といふ野生の人參が出たのでありますが、今ではだん/″\滿洲の奧の方に行かなければ野生人參はなくなつた。この天然人參を保存する爲に滿洲では森林を保存しなければならぬ。さういふいろ/\のことで森林を保存することになりました。これは滿洲人とか蒙古人といへば野蠻であるやうでありますが、支那人からいへば、一旦支那の國では人工を盡してしまつたので、反動的に天然生活の必要を感じて、或地方に天然を保存することを考へなければならぬやうになつて來たのでありますから、これは一遍極端な人工的のことをした上の保存であつて、復古的の天然保存の必要といふことを支那人が考へるやうになつた。ヨーロッパ人はまだそこ
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