ふものがあつて、神社に依つて其の記録のない時代の補ひを付けることが出來ますから、非常に國史を研究する上に於て便利であります。それを幾らかやり方を間違へると飛んだ間違つたやり方をしますものですから、其の研究は餘程微細な注意を致さなければならぬのでありますが、兎に角其の研究の方法さへ誤りがなかつたならば、古代のことは神社に於て餘程明らかになる。殊に近畿地方は昔から記録の無い時から非常に早く開け始めた地方でありますから、近畿地方に於ける神社の状態は二重にも三重にもなつて居りますから、近畿地方の神社を研究しますと日本の最も古い所が隨分分らうと思ひます。それが神社研究といふことの大體緒論みたやうなものであります。
前に申しました如く私が神社のことに就て少しばかり本を讀んだ時に、神社を深く研究する積りでありませぬから文書を研究するとかいふ根本的の研究をしたのではありませぬ。人が研究したのを極く粗雜に讀んで見た位のことでありますが、人の研究したものを見た所の結果に依つて多少生じた疑問と申しますか、別に私は專門家ではありませぬから、そんなことを決着する必要はありませぬから決着して居りませぬが、色々それに就て偶然思ひ付いたことを述べて見たいと思ふのであります。
其の一つは外國から來た神のことであります。これは前から研究した人があります。伴信友の蕃神考、是は京都の平野神社の研究、即ち是は今日では國書刊行會などで版になつて居りますから御覽になつた方もありませうが、之に就て思ひ付いたことがあります。
所が私は能く申しますが、國學、例へば神社の研究にしても、古代の研究にしても、國學といふものは明治以前の方が大分發達して居ります。明治以後は頓と發達しませぬ。神社のことでも明治以前の方が大分微に入つて研究しました。其の後明治以後になつては頓とさういふ方の人が餘り研究をしませぬので、どうかすると進歩しないのみならず、色々書いたことが皆後戻りをして居る。平野神社なども同樣でありまして、平野神社の伴信友の研究といふものは餘程良い頭で研究したものであります。非常に感服すべき所のものであります。今日平野神社で其の祭神が如何なるものかといふことに就て考へて居ることは信友の考へたよりも遙かに退歩して居るではないかと思ふ。平野神社に就て研究したのではありませぬが古事類苑といふ大きな本があります。あれに官國幣社のことを書いてありますが、あれで見ますと平野神社に就て伴信友の研究したやうなことは、丸で書いてありませぬ。信友の研究した中で詰らない所の一部分五六行のものが載せてありますが、眼目とした事は殆ど何も述べてない。矢張り昔からの詰らない傳説を土臺として、何だか分らないやうになつて居ります。別にそれで差支があるといふ譯ではありませぬが、平野神社といふものは途中から色々變りまして、後になつて皇室が繁昌されなくなつた時代に大分衰へた。兎に角中古は神社といふものは保護者が無くなつたら往々自分の自營策を講じた。伊勢の大神宮でも其の時分に皇室の保護が無くなり、氏族の神社でも氏子が繁昌しなくなると自營策を講じた。其の爲に色々のことをやる。神社の自營策の結果として氏子を取込むことを考へる。平野の神社も八姓の神樣の合祀と言はれて、源氏もあれば平家もあり、何もかも皆取込んで、大凡京都に居る名族の人達は皆平野神社に詣らなければならぬやうに仕組んである。さういふことは自營策としてなか/\巧く考へたもので、さういふことを中古に神社はやりました。それで其の頃出來た八姓の神といふ説でありますが、今日ではどの位の程度で平野神社といふものを考へて居るかと申しますと、斯ういふ鐵道院の方で書いた本に出て居ることも好い加減のものであります。それで折角伴信友といふやうな學者が非常な苦心をして研究したのが何の役にも立たない。學問の權威を無視すること夥しいものである。
それでは伴信友はどういふ風に研究したかと申しますと、平野神社といふものは今木神、久度神、古開神、比※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]神、斯う四つの神樣となつて居ります。鐵道院の神詣でには何の神樣か分らないといふことになつて居ります。伴信友の説では是は一體平野神社といふものは桓武天皇樣が平安京を開かれた時に此の平安京へ持つて來られたものであるとしてある。桓武天皇の母方の家といふものは、百濟の王の末孫であります。百濟の聖明王は日本へ佛教を欽明朝の時に送つて寄越した王であります。此の王の末孫であります。それで此の今木神等は百濟の王家の神樣と考へられたのであります。此の今木神といふのは即ち聖明王だと考へた、久度神、古開神といふのは何だか分らない、兎に角久度神社といふものは大和の龍田の附近にあつたので一緒に來た。古開神といふのは矢張り外國から來た家柄
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