この独占会社が従来政党とどういう腐れ縁があり、その台所や地盤関係にどんな魔力がひそんで居るかという事は一向知らないけれど、地方のそれぞれの首振りや小財閥とこの独占会社とがガッチリ結んで居る事は直接にひたひたと体験が出来るのである。これは一旦都会生活に慣らされた者でないと充分に解るまい、田舎の者は電燈会社はそういうものだと心得ている、同じ電燈会社でも都会に於てはそれ程譲歩しながら田舎に於ては斯うもきつい、無知な農民はそれに対して主張する事を知らない、電力が国営になったからとてそう急に豊富低廉なる電力を人民が享受し得られるものか如何か、よしそれが享受し得られる計算になっているとしても今日は非常時であって、文句がつけられまいけれど、こういう独占会社に持たせて置いて、いろいろの地方閥とからみ合うに任せて置くよりは国家の手に任せて置く方が名分共に正しいと云う事を百姓弥之助は考えている。
 それはそれとして百姓弥之助の少年時代つまり小学校卒業の頃十四歳の頃までは電気というものに恵まれない生活であった。極く幼年時代はあんどんの時代であって、それから石油|洋燈《ラムプ》の時代に移った、石油洋燈にも大小
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