が皆相当の形体を附与されて表現されるのに、このこん[#「こん」に傍点]ばかりは誰もどんな形をして居るか説明したものはなく、またこればっかりは探究心の強い子供もその正体を追究することなしに、ただこん[#「こん」に傍点]が引くこん[#「こん」に傍点]が引くと云う事だけで通されて居た、こん[#「こん」に傍点]と云うのは或は「魂」と云う字を宛てはめたら近いのかとも思われる。そうしてその淵々の底の見え通らない青みを帯びた俗に「青んぶく」というすごい所にのみ棲《す》んで居て、その引っ張り込む者が重に若い男女であるところを見るとこれは身投げとか心中とかいうものではなかったかと思われる。今時は川底も平均して、人間が飛び込んでも沈みきるような処は稀《まれ》であるからそう云うグロも全く棲家を失ってしまったらしいけれ共、そう云う不自然の中の自然な風景も伝説も同時に全く消滅してしまった。もし明朗という意味がそういう風に平板に人間の利便だけを標準として軽く浅くなるという意味ならば明朗は安っぽいものだ、そうして斯様《かよう》に明朗化され平板化された進歩というもののうちに住民の生活が内外共にどれ丈向上したかと思えば
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