に処してしまうか、或いは相当期間|禁錮《きんこ》して、再び真猫に帰り得る見込有りや否《いな》やを試験するか、何にしても今日迄侵入と掠奪《りゃくだつ》に依りこの通り肥り返っている代物《しろもの》だから多少の窮命を与えたからとて早急に生命に異状はあるまい。しばらくこの農舎につないで鼠の番をさせて置く――そうして弥之助はまた東京へ出たが、二日ばかりして帰って見ると野良猫は昨晩死んでしまったと云うことである。二晩や三晩で参る筈は無い屈強さと見ていたのが、寒さにこごえたか、針金の緊縛で心臓でも痛めたか、脆《もろ》くも最期を遂げてしまった。
思えば猫の一生もまた多事と云わなければならぬ。
二十
百姓弥之助は或日の事、植民地を出て多摩川の沿岸の方へと歩いて行って見た。昔に変るいちじるしいものは水道と水田であった。
水道と云うのは多摩川の本流をここで分けて一方を玉川上水として、江戸以来東京へ引き、一方はそのまま東京湾へ落したものだが、昔はその分水も豊富であったが、東京の拡大するにつれ、今はもう殆《ほとん》ど全部を上水へ取入れてしまって、六郷の方へは殆ど一滴も落さないと云うしぼり
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