口が殖えて日本は人口が多過ぎるという感じはやがてドコかへ消えて行って、その後に人間飢饉の大波が寄せて来るような感じ、今や、日本の人口が一億に達したとはいうものの、四億以上の人口を有する国を向うに廻して長期の戦争をしなければならないとすれば、この分では人間はいくらあっても足りない、金より物ということが、一時行われたが、それが物より人ということになりつつあるのではないか、今、農業に働いている壮丁は、いつ徴集されるか知れない、そうなると一人前に足りない子供の労力というものが、一人前以上に要求される時期が来たというものかも知れぬ。
十九
百姓弥之助が植民地へ戻ると二ツの欠食児童が待って居る。
欠食児童とは猫の子である、この植民地へはまぐれ猫、のら猫がよくやって来る。まぐれ猫については曾て次のような一文を書いた事がある。
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野良猫
夏のうち耕書堂の居間を開け放しにして置くと、よく野良猫に襲われる。食事半ばで肴《さかな》をかすめられたりすること屡々《しばしば》である。或時の如きは、日本橋からくさや[#「くさや」に傍点]の干物、鱈《たら》の
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