年あたりは一俵二円もする、農民生活で木炭などを買いきれたものではない。まだまだ日本の農村生活から囲炉裏を奪う事の出来ないのはわかっているが、そこで素材を使うべき場合には相当限定をして置いてあとはこの自家製木炭で調節するようには出来ないものか、この村あたりではまだこの炭化方法を実験して居るところはない様だ、これは一つ大いにはやらせて見たいものだと思って居る。
十三
百姓弥之助は今年の正月を植民地で迎えた。
元日と云っても相変らずの自炊生活の一人者に過ぎない、併し今年は塾の若い者に雑煮《ぞうに》の材料だけをこしらえさせて、それから後は例に依っての手料理で元日の朝を迎えたと云う訳だ。
昨晩の大晦日《おおみそか》には可なりの夜深しをしたものだから、朝起きたのは六時であった。炉へ火をたきつけて自在へ旧式の鉄の小鍋を下げて、粗朶《そだ》を焚いてお雑煮を煮初めた。それから半リットルばかりの清酒をお屠蘇《とそ》のかわりとして、昨日|炊《た》いて置いた飯をさらさらとかき込んでそれで元日の朝食は済んだわけだ。
至って閑散淡泊なものだが、然しこの食料品としては切り昆布とゴマメ数の子
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