は一定の炭竈を築いてする一定の方法がある、が、弥之助がはじめたのはそういう本格的のやり方でなく、軽便実用を主とした即成式のものであった。
 この春、弥之助はその地方の農林学校を訪れて教師が校庭で速成炭焼を試験しているのを見て、仔細にその仕方を尋ねて来た、というのはこの地方では不相変《あいかわらず》囲炉裡《いろり》で焚火《たきび》をやっているが、それは燃料の経済からいっても、住居の構造と衛生からいっても損するところが多いものだ、それに薪《まき》の材料も年々不足して来るし、そうかといって、農家の力では木炭を買って使いきれない。
 ところがここに桑の木というものがある。養蚕《ようさん》の事が近来、めっきり衰えて桑園を作畑に復旧する数も少なくない。新百姓としての弥之助は、附近の桑園を買い取って、これを耕地にする為に何千本もの桑の株を掘り返して持っている、この桑の株は大抵七八年の歳月を経ているが、枝を刈り取り刈り取りするものだから、丈《た》けは僅か二三尺に過ぎない、が年功は相当に経ているだけに、薪にすると火持がよい、併し、これを炭に焼けば一層結構なものになると、かねがねそれを心掛けていたが、最近
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