マを張って、目の出る方へ賭《か》けるというような好奇心を持ちません、当りさわりのないところで、自分相当の力を尽す、といっても、安閑として成るがままに任せ、思いつきばったりに濫費をしてそれで足れりとも思いません、もし私に取るに足るだけの財力がありとしましたならば、最もよろしき方法によって、自分も使いたい、人にも使ってもらいたいと思うばっかりです、自分で理想の――好むところの事業をやることには、胆吹の経験で、いま考えさせられていることがあるのです、ここへ来たのを機会として、事業というものに見直しをしなければならないと考えているところで、実はその点に就いて、とりあえず、あなたの意見が聞きたいと思っていたところなのでした」
「拙者の本志もそこにあるのでございました、あなた様が、父上から得られた新たな財力の保管と、その使用方法に於ては、私にも重大な責任もあり、同時に遠慮なく申しますと、相当の興味も持っているのでございまして、財を保護するは当然だが、同時に、これを殺してはいけないということも考えまして、それで、あれよ、これよともくろんだり、計算したりしてみましたが、その計画のうちの一つを、御参考までにここで申し上げてみたい、無論、御採用になるとならぬは、あなた様の御意《ぎょい》のままで、お気に召さなければ、第二、第三と、幾つでも立案してごらんに入れますつもり。その第一案を申し上げてみますると――この第一案と申しますのは、第一等の立案というわけではございません、最初、第一に思いついたという軽い意味のものでございますから、そのおつもりで……」
「遠慮なく申し聞かせていただきます」
「まず、この山科の光悦屋敷、改めて申しますと光仙林をお手に入れましたのを機縁と致して、こういったような計画はいかがでございましょう」
 光仙林をお銀様の手に帰《き》せしめたのも不破の関守氏、これを根拠地として、お銀様をして、何事をか為《な》さしめんとするのも不破の関守氏であります。

         十九

 ここで、不破の関守氏の提案というものは、次のような内容でありました。
 この山科屋敷が手に入ったを機会として、ここで国宝、或いは重要美術に準ずる書画と骨董類《こっとうるい》を大量に蒐集して置きたいという極めて罪のない事業であります。
 それというのも、前提の天下の形勢論が、やはり基礎を致しているの
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