行キオッタガ、オレニハイツモ咄《はな》シテ逃ゲタ、又江戸ヘ出ロトイッテモ、オレガ手紙ヲ附ケテ、仲間中ヘ借倒シノワケヲシテヤルト、ミンナガ損ヲシタコトハソレナリニシテクレタ、トウトウ七八十両ノアビセデ三州ヘ行キオッタガ今ニ帰ッテ来ヌ、三州デドウニカ人間ニナッタト云ウコトダ、ソレハオレガチョウシヘ行ッタ時、向島ノ兼ト云ウ男ニ聞イタ、兼ガ遠州ノ秋葉ヘ参詣シタ時ニ、鳳来寺ニテ逢ッタト、ソノ時ハ綺麗《きれい》ノナリデ居タト、オレノハナシヲシテ、二時《ふたとき》バカリ休ンデ居テ別レタト聞イタ」
[#ここで字下げ終わり]
こいつ同病相憐み、自分が自堕落だから、自然、相当に自堕落の世話もするところが妙だ。
[#ここから1字下げ]
「或日、小倉主税ノ宅デ、神田黒川町ノ仕立屋ニ逢ッタガ、コイツハ、カゲ富《とみ》ノ箱屋ヲスル奴ダガ、オレガ懇意ノ徳山主計トイウ仁ガ、至ッテ富ヲ好キデ、南平ニ富ヲ頼ンダ故ニ、今日ハ富ノ日ダカラ寄加持《よせかじ》ヲスルトッテ、主税ノ宅ヘ大勢ソノムレ[#「ムレ」に傍点]ガ寄ッテ来テ、ヨセ加持ヲ始メヨウトスル時、オレガ知ラズニ行ッタラ、大勢|揃《そろ》ッテイルカラ、様子ヲ聞イタラ右ノ次第ヲ咄《はな》ス故、ソノ席ニイテ始終ノ様子ヲ見タラ、南平ガ女ヲ呼ンデ、種々|祷《いの》ッテ護摩ヲタイテカラ、女ノ中座《なかざ》ニ幣束ヲ持タセテ神イサメヲシテ、少シ過ギルト、女ガ口バシリデ、今日ハ六ノ大目、当リハ何番ノ何番ト云ウ故、一同ガ嬉シガッタ、ソレカラ上ゲテ仕舞ウカラ、南平ヘオレガ云ウニハ、ハジメテ見テ恐レ入ッタ、シカシ是レハ随分出来ルコトダロウト云ッタラバ、仕立屋メガ直グニ口ヲ出シテ、勝様ガ仰セデハアルガ、ナカナカ容易ニハ寄加持ハ出来ヌ、ソノ訳ハ悉《ことごと》ク法ガ有ルト云イオルカラ、ソレハ尤《もっと》モダガ、ヨクツモッテ見ロ、南平ハ何処《どこ》ノ馬ノ骨ダカ知ラナイガ、アノ通リスルガ、オレハ生レナガラ御旗本デ身分モ尊シ、ソノオレガ一心ヲ誠ニシテ寄セタラ、神ハ速《すみや》カニ納受ガ有ロト思ウ故ニ云ウノダ、南平ニ聞クニ、オノシガ出過ギタコトヲイウトハ失礼ダト叱ッタラバ、仕立屋ガ云ウニハ、ソレハアナタガ御無理ダ、神事ニハ法ト云ウ物ガアリマストテ、イロイロヌカス故、オレガ座敷ノ真中ヘ出テ、先ズ論ハ無益ダカラ、手前ハ自分ノ前ヘ出テ礼ヲシロ、許スト云ワヌウチニ手前ノ額ガ上ッタラ、オレハ直チ
前へ
次へ
全201ページ中162ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング