残ラズ拵《こしら》エテ、十日目ニ出勤シタ。
ソレカラ毎日毎日、上下《かみしも》ヲ着テ、諸所ノケンカヲ頼ンデ歩イタガ、ソノ時、頭《かしら》ガ大久保上野介ト云イシガ、赤阪|喰違外《くいちがいそと》ダガ、毎日毎日行ツテ御番入リヲセメタ、ソレカラ、以前ヨリイヨイヨ悪イコトヲシタコトヲ残ラズ書取ッテ、只今ハ改心シタカラ見出シテクレロト云ッタラ、取扱ガ来テ、御支配ヨリオンミツヲ以テ、世間ヲ聞糺《ききただ》スカラ、ソノ心得ニテ居ロトイウカラ、待ッテ居タラ、頭ガ、或時云ウニハ、配下ノ者ハイツモ隠スガ、御自分ハ残ラズ行路ヲ申聞ケタ故、諸所聞キ合ワセタ所ガ、云ワレタヨリハ事大キイ、シカシ改心シテ満足ダ、是非見立テヤルベシ、精勤シロトイウカラ、出精シテ、アイニハ稽古ヲシテイタガ、度々|書上《かきあげ》ニモナッタガ、トカク心願ガ出来ヌカラクヤシカッタ――」
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まあ、とにかく、この辺で納まれば見つけたものだ、箸《はし》にも棒にもかからぬ代物《しろもの》だが、人間にはまだ見どころがある、この神尾のように腹まで腐りきってはいないところがあると、主膳も身に引きくらべてややさとるところがありました。
六十二
ここで勝の小吉が親父と言ったのは、実家|男谷《おたに》の父親のことで、平蔵と言い、兄というのは即ち下総守信友で、当時府下第一の剣客なので、その男谷平蔵の三男として生れた小吉が、勝家へ養子にやられたこの自叙伝の主人公、左衛門太郎夢酔入道であることは、神尾主膳も先刻承知の上で読み進んでいるのです。さすがのやくざ者も、この時代から漸《ようや》く目がさめて、人間並みになりかかったらしいことを、読みながら、神尾主膳は相当くすぐったがっている。さてまた自叙伝の読みつぎ――
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「コノ年、親父ヤ兄ニ云イ立テテ、外宅ヲシテ割下水《わりげすい》天野右京トイッタ人ノ地面ヲ借リテ、今迄ノ家ヲ引イタガ、ソノ時、居所ニ困ッタカラ、天野ノ二階ヲ借リテイタウチニ、俄《にわか》ニ右京ガ大病ニテ死ンダ故、イロイロト世話ヲシタガ、ソノウチ普請モ出来、新宅ヘ移リ居ルト、右京方ニテハ跡取ガ二歳故、本家ノ天野岩蔵トイウ仁ガ、久来ノ意趣ニテ、家督願ノ時|六《む》ツカシク云イ出シテ、右京ノ家ヲツブサントシタカラ、イロイロ揉《も》メテ片附カズ、ソノ時、オレガ本家トハ心安イカ
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