かたがた、地所家屋の売買の周旋もする人だろうぐらいに見ておりました。
なるほど、外出先を推想してみると、この男はこっとう[#「こっとう」に傍点]あさりばかりではない、相当の地所家屋を見つけながら歩いて来るものらしい。現に問題となっている山科の光悦屋敷の如きは、一僕を指図して縄張りまで張って、半日をその測量に費したような形跡もあります。
十八
三日目の午後、今日は早帰りをして、風呂につかっていると、三助が一人やって来て、
「お流し致しましょう」
「済まない」
手拭を渡して不破の関守氏が、背中を向けると、その三助の流しぶりが変っているのに気がつきます。この三助は、背中を流すに片手をつかっている、左手だけしか使わない、最初のうちは勝手だろうと考えていたが、変ですから、不破の関守氏が気をつけて見ると、手んぼう[#「手んぼう」に傍点]なんです。わざと気取って片手あしらいをして見せるのではない、片手しかないから、そのある方の手だけで働いているのだと認めました。
しかし、人の不具を認めたからといって、必要なきに注視するのも心なき業だ。片手であろうとも、両手であろうとも、
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