銘の珊瑚《さんご》の五分玉、店主はまがい物と心得て十把一《じっぱひと》からげにしてあったのを拙者が見出して来た、欲しかったら、お宮さん、君に上げましょう」
「まあ、有難うございます」
といったようなあんばいで、暇つぶしに彼は、山科から京都くんだりを遊んで来たもののようだが、必ずしも、そうばかりではないらしくもある。
 その翌日もまた宿を出かけて、同じような時刻に帰って来て、またこっとう[#「こっとう」に傍点]物を懐ろから引張り出して、お宮さん相手に説明する。お宮さん、白鳳期がどうの、弘仁がああのと言ってもよくわからないが、そこは商売柄、いいかげんに調子を合わせると、不破の関守氏も、いい気になって、次から次へでくの坊を引っぱり出して悦に入るが、どうかすると、こっとう[#「こっとう」に傍点]以外の珍物を引っぱり出して、よろしかったらこれはお土産《みやげ》として君に上げようと来るものだから、お宮さんは、思いがけない珊瑚の五分玉だの、たいまいの櫛《くし》だのというものにありつけるので嬉しがる。
「そないにこっとう[#「こっとう」に傍点]ばかりあつめて、どないになさいますの、小間物屋さんでもおは
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