一筋に間違いなく大阪へお帰りなさいよ、途中で魔がさすといけませんからね、間違って三輪の里へなんぞ踏み込もうものなら、今度こそ取返しがつきませんよ、それは申して置きます」
「はい、有難うございます」
 その時にまたしても鶏の鳴く音――
 お銀様の夢が本当に破れました。無論、夢中に現われた人の一人もそこにあるはずはなく、衝立《ついたて》はあるが、その後ろから正銘のここの雇い婆さんが現われて、
「お目ざめでございますか。昨晩は、たいそうお疲れのようで、よくお休みになりました。今日は雨もすっかり上りました、お天気は大丈夫でございます。それそれ、昨晩お使がございまして、この上の大谷風呂から、あなた様へこのお手紙でございました」
 一封の書状を取って、お銀様の枕許《まくらもと》に置く。

         十七

 逢坂山《おうさかやま》の大谷風呂を根拠地とした不破の関守氏は、その翌日はまた飄然《ひょうぜん》として、山科から京洛を歩いて、夕方、宿へ戻りました。
「お帰りやす、どちらを歩いておいでやした」
 お宮さんが迎える。
「行き当りばったりで、古物買いをやって来た」
と言って、不破の関守氏は風
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