、夢に入り来るところの人は小町でありました。最初の印象の壇の上の、しょうづかの婆さんに紛らわしい関寺小町《せきでらこまち》が、壇の上から徐《おもむ》ろに下りて来ました。
「どうです、一枚お書きなさいな、あなたもあのくらいに書ける手じゃありませんか、書いてごらんなさいましな」
自分の片膝に持添えていた短冊と、右の手に七三に下向きに持っていた筆を取添えて、お銀様の前へ突きつけるのであります。そうして、あなたもあのくらいに書ける手じゃありませんか、とそそのかして、ふいと床の間を振向いたところには、やはり夜前、つくづくと見て、心憎さを感じたところの懐紙風のかけものが、そのまままざまざと浮き出している。
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花のいろは
うつりにけりな
いたつらに
わか身世にふる
なかめせしまに
[#ここで字下げ終わり]
そう言われると、お銀様にも軽快な競争心といったようなものが動きそめたと見えて、関寺小町のつきつけた筆と色紙《しきし》とに、手をのべて受取ると、いつのまにか受身が受けられるような立場となって、関寺小町の姿は消えたが、「花の色は」の大懐紙の前に、美しい有髪
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