しげに、
「でも、何なら、御別荘にはお留守がいらっしゃいますによって、たずねてごろうじませ、手軽う見せて下さるのやろうと存じますさかい」
「そうですか、たとえ個人の所有に帰したとはいえ、手軽に見せてもらえるならば、見せてもらった方が、見せてもらわないよりはよろしい、ひとつ門を叩いてみましょうかな」
不破の関守氏も、つい、その気になって、小戻りをして、走井の別荘の門をおとのうてみる。犬が吠《ほ》える、同時に小門の下から夥《おびただ》しい小犬が走り出して来て、関守氏の足もとにまつわる、同時に、中では吠える親犬をしまい込む家人のあわただしい物音が聞えたが、やがて門が内から開かれて、
「お越しやす」
極めて尋常な女中が一人、現われました。
「有名な走井の水というのは、あなたのお家にあるのですか、旅の者ですが、一見させていただきたい」
「おやすいことでおます、どうぞ、こちらへお入りやして」
女中に導かれるまでもなく、門からつい一足の右手は、花崗石の高さ三尺、径四尺ぐらいの井筒《いづつ》があって「走井」と彫ってある、そこから滾々《こんこん》と水を吹き上げている。
「ははあ、これが走井の水です
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