違いはありますまいな。時に、この道中には目洗い地蔵というのはございませんか」
 そういうような発問をして、道を誤らずに山科街道まで出てしまいました。
「奴茶屋《やっこぢゃや》はドコになりますか、柳緑花紅の札の辻はどちらですか」
 この質問はナンセンスでした。不破の関守氏らしくもない愚問で、二つの異なった方向を同時に質問したのですから、いわば碁を打つにあたって一度に二石を下ろしたようなもので、徒《いたず》らに相手方を当惑せしむるに過ぎません。それでも、奴茶屋は右へ進み、追分の札の辻へは左へ小戻りをしなければならないことを教えられて、暫く立ちどまって首を傾けていたが、暫くして、次なる旅の人をつかまえ、
「山科の光悦屋敷というのはまだ遠いですか。では大谷の風呂の方は……この地点から、まずどちらへ行くのが順で、どちらへ行くのが近いですか。ああ、そうですか、左様でございましたか、しからば、その大谷風呂の方から先に……何とおっしゃる、そのあいだに有名な走井《はしりい》の泉があって、走餅を売っておりますから御賞翫《ごしょうがん》くださいですって、よろしい、いただきましょう。では、そういうことに」
 
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