いると、鐚《びた》はいよいよいい気になり、
「このお刺身の大盤振舞がスミますてえと、その次には、もう一つ、あっ! と言わせる趣向が秘めてあるんでがんして……」
それを大得意に弁じ立てましたのを聞いていると――
「なんしろ、こういう険悪な時代でげすから、つとめて人心を和《やわ》らげるように、和らげるようにと楫《かじ》を取って行かなければならないんでげして、強いばかりが取柄ではがあせん、つまり毛唐に対しても、日本にはこのくらいの芸術があるてえところを、見せてやりてえのが芸娼院の本意でげすよって、この次には日本の文学をひとつ、海外進出てえ方面にウンと馬力をかけてみようてえんでげすが、万葉古今となりますてえと、なかなか調べが古うござんして、毛唐の頭には入りにくいんでげすから、まず小説の方からはじめるてのが、わかりがよくてよろしかろうと思うんでげすが、いかがなもので」
「まあ、何でもいいようにやってみろ」
「まず御承認の、その小説という段になりますると、まず長篇大作というところから見廻しまするてえと……日本に於きまして、上古に紫式部の源氏物語――近代に及んで曲亭馬琴の南総里見八犬伝――未来に至
前へ
次へ
全356ページ中349ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング