まいと言った故、またまたひっくり返してやったら、金を一両二分出して、またまたあやまりおった故、金が思いよらず取れる故、済ましてやった。そのうちに夜が明けかかったから、寝ずに三島を立ったら、道中籠を出したから、先の宿まで寝て行った。そのはずだ、稽古道具へ、箱根を越し、水戸という小札を書いて差して置いたものだから、うまくいったのだ。
おれが思うには、これからは日本国を歩いて何ぞあったらきりじにをしようと覚悟して出たから何も怖いことはなかった――」
[#ここで字下げ終わり]
ここまで読んで神尾主膳が感じたことは、個人的の興味ではなく、この破格な行状記の後ろに動いている時代の空気というものでありました。
江戸徳川氏の末期の、空気のどろどろになって、どうにも動きの取れない停滞が、この勝の親父を産んだのだ。いや、勝の親父だけではない、自分の如きは、まさしく、そのどろどろの沼の中の産物の指折りでないとは言えない、そういうことを神尾主膳が自覚せしめられました。
江戸末期の停滞が産んだ、我々旗本浪人のうちの不良に二種類がある、それは硬派の不良と、軟派の不良だ。
その勝の親父の如きは、当然、硬派
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