しくかぜを引いて寝ているから、それなりにして置いた。或る日少し気分がいいから、寒稽古に出たら、小林も来ていて、勝様一本願いたいとぬかすから、見る通り久しく不快で、今に月代《さかやき》も剃らずいるくらいだが、せっかくのことだから一ぽん遣《つか》いましょうと言って遣ったが、まず二本つづけて勝ったら、小林が組みついたから腰車にかけて投げてやると、仰のけに倒れたから、腰を足にておさえて咽喉《のど》を突いてやった。その時、小林が起き上り、面《めん》を取って、おれに言いおるには、侍を土足にかけて済むか済まぬかとぬかすから、これは貴公の言葉にも似ぬ言い事かな、最初のたちあいに、未熟ゆえ指図してくれろと御申し故、侍の組打ちは勝つと斯様《かよう》のものだと仕形をして見せたのだ、言い分はあるまいと言ったが、御尤《ごもっと》も、一声もござりませぬと言いおった。それから、おれを暗討《やみう》ちにするとて、つけおったが、時々油断を見ては、夜道にてすっぱ[#「すっぱ」に傍点]抜きをしてきりおったが、時々、羽織など少しずつ切ったが、傷は附けられたことはなかった。それからいろいろしおったが、おれも気をつけていた故に、
前へ
次へ
全356ページ中333ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング