れも途方にくれて泣いていたら、亭主が言うには、それは道中の胡麻《ごま》の蠅というものだ、わたしは江戸からのお連れと思ったが、なんしろ気の毒なことだ、ドコを志して行かしゃるとて真実に世話をしてくれたが、言うには、ドコという当てはないが上方へ行くのだと言ったら、なんしろ襦袢《じゅばん》ばかりにては仕方がない、どうしたらよかろうととほうにくれたが、亭主がひしゃく[#「ひしゃく」に傍点]一本くれて、これまで江戸っ児がこの街道にては、ままそんなのがあるから、お前もこのひしゃく[#「ひしゃく」に傍点]を持って浜松の御城下在とも、一文ズツ貰《もら》って来いと教えたから、ようよう思い直して、一日方々もらって歩いたが、米や麦五升ばかりに、銭百二三十文もらって帰った。亭主はいいものにてその晩は泊めてくれた。翌日まず伊勢へ行って身の上を祈って来たがよかろうと言う故、貰った米と麦とを三升ばかりに銭五十文ほど亭主に礼心にやって、それから毎日毎日乞食をして伊勢大神宮へ参ったが、夜は松原または川原、或いは辻堂へ寝たが、蚊にせめられてロクに寝ることもできず、つまらぬざまだっけ。
伊勢の相生の坂にて、同じ乞食に心やすく
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