ない、進退きわまったのだが、そこは伊東の頭がよい、誰にも文句の言えない名分によって辞職をして、新たに別の方面へ分立することができたのだ」
「ははあ、伊東という男、そんなに頭がよかったかな、そうして、その分立を近藤が素直に許したのも不思議じゃないか」
「しかし、そこが伊東の頭のよいところで、近藤といえどもこれには文句のつけられない名分を選んだのだ」
「どういう名分なんだ」
 これらの問答は主として、山崎譲と田中新兵衛との間に取りかわされている。机竜之助はただ黙って聞き役である。だが、語ると黙するとにかかわらず、三人の足は歩調を揃《そろ》えて絶えず京洛の方へ向って進んでいるのだが、行けども行けども捗《はかど》らないこと夥《おびただ》しい。やっぱり荒涼たる荒野原で、行けば行くほど「柳緑花紅」がついて廻る。

         四十四

 山崎譲は、相変らず能弁に新撰組後日物語を語りながら歩いている。
「もともと伊東は頭もよし、才もあるから、天下の形勢を近藤よりは一層広く見ている、近藤のように幕府一点張りの猪武者《いのししむしゃ》ではない、これは勤王攘夷で行かなければ事は為《な》せないと見たも
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