一通りの根気で仕あがるものじゃない、やり出した以上は、失望せず、中絶せずにおやりなさい」
「有難うございます――先生も語学の方をおやりなんですか」
 青年は、青嵐居士の理解と激励を有難いことに感謝してみると、我々に対してこれだけの理解と同情を持っている人は、勢い、語学に対して相当の理解と同情を持っている人、あるいは相当以上にその実際の知識を持っている人ではないか、それを持ち合わせているとしたら、早速受けて学びたい、という好学的便乗心が早くも青年の胸に兆《きざ》したと見え、透かさずその言葉尻をとらえてみたのですが、
「いいや、僕は無精者で、語学なんぞはようやりません、それに晩学ではね」
と突放されたが、まだ相当脈はあるように、青年には思いきれないものがあると見えて、ひとり言のように、
「ドコか、英学を教えてくれるよい先生はありますまいかね」
「英学のよい先生を求めようとすれば、都会へ出るよりほかはない、長崎とか、大阪とか、江戸とかへ行かなければ、大家はいない」
「大家でなくてもいいんです、ホンの手ほどきだけしてくれる人があれば助かるんです、それから後は、どんなことをしても自分で漕ぎつけて
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