と、しきりにその性格や、労働の研究を進めておりました。
そうしてみると、甲種と乙種に編入すべき人種の極めて少ないこと、全部でどうしても十名以上を数えることはできない。丙種、すなわち日給をもらってただ単に働く人は二十人以上あって、これは比較的最も多数だが、最も無色なのもこのやからであることを知りました。すなわち、近在の百姓連が、農事の暇を見ては賃銭稼ぎに来るだけのもので、なんらの熱情はないが、平明忠実によく働くことは働きます。
丁種、すなわち食詰め者に至っては、頭数に於て右の丙種に次ぐものであって、十数名はたしかにいるが、これが最も王国民の中の難物だと思いました。監督している間は働きぶりを見せるけれども、眼が離れると、油を売り、蔭口を叩くのはこの連中であって、これを見のがしていると、その風が、他の人種に伝染するおそれがあることを青嵐居士が見てとって、どうしても監督の中心は、この丁種へ置かなければならないことに着眼しました。
戊種に至っては、これは十名足らずの最も僅少な人数に過ぎないし、若年者が多く、本来は無邪気で、好意で参加しているだけに、教育すれば大いに収穫ともなるが、失望すると翻すやからである。その流動性を誘導して、本物に鍛錬してやることが任務だと青嵐居士が見て取りました。
だいたい、胆吹王国に身を寄せる人種は右のような人別《にんべつ》になりますけれども、右の人別のいずれへも入らない存在を、炯眼《けいがん》なる青嵐居士が早くも見て取りました。たいていは以上の五種類の中へ編入してできないという人種はないが、ただ二人だけ、どうも青嵐居士の頭をひねった人種が存在するのです。青嵐居士は早くも、この二人はスパイだなと見て取ってしまいました。
スパイというのは、つまり、このところに変てこな団体が巣を食いはじめた、表面は開墾だが、何か特別の危険思想なり、行動なりの卵ではないか、或いはまた大本教や、ひとのみちの二の舞ではない――一の舞ではないかというような懸念から、藤沼正兵衛あたりによってさし廻された偵察者である。それが同志、或いは労働者をよそおって、この王国中へ潜入しているのが、たしかに二人はあると睨《にら》んだのが、さすがに青嵐居士の炯眼です。不破の関守氏は、そういう科学的分析も、人種的検討もしませんでした。
もとより当初は、来《きた》る者拒まず、という解放主義でなければ人が集まらないという理由の下に、人を入れに入れたものですから、そういう検討をする遑《いとま》がなかった。雑多な人が来て、雑多な性格をぶちまけることを、大まかに容認していたのですから、不破の関守氏は大体をおさめるに急で、個々の分析には及ばなかったのも道理です。
さて、そういうふうに青嵐居士は、胆吹王国の人種を分類してみましたけれども、その分類によって、処分に手をつけようというのではないのです。それはそのまま単に研究とし、参考の資料として扱いながら、その範囲に於て監督もし、働かせもしているのです。
そうしてこれらの人種に対して、淡々として一視同仁に眼をかけるものだから、特にこの人を崇拝するという信者も出ない代り、不服や反抗の色を現わすものは一人もありませんでした。
かくて青嵐居士は、毎朝毎日、王国内を巡視しては、極めて心やすく国民に向って呼びかける、評判はなかなか悪くないのです。
二十四
ある日、青嵐居士が、炭焼の釜出し勤務を見廻っていると、一人の青年がたいへん丁寧に挨拶をする途端に、ふところから転がり出して地上に落ちたものがありました。
「何か落ちたぜ、君」
青嵐居士から注意を受けて、
「はい、どうも済みません」
この青年は、あわただしく、落ちたものを拾い取って、またふところへ捻《ね》じ込んで仕事にかかるのを、青嵐居士が見のがさず、
「そりゃ、何の本だい、君」
と言ってたずねますと、
「いいえ、なあに、何でもありません」
「見せ給え」
そう言われて青年も、拒むわけにはゆかないで、いったんふところへ捻じ込んだ小冊子を、また取り出して、青嵐居士の前へ提出しました。
「ははあ、君は蘭学をやってるんだな、感心だね」
「相済みません」
と言って、青年が頭を掻《か》きました。蘭学をやることが別に相済まぬことになるはずはないが、これはこの青年の口癖でしょう。青嵐居士は、それ以上にはなんらの追究することもなく、右の冊子を青年のふところに押戻してやりながら、
「今晩、話しに来給え、上平館の時習室へ話しに来給え」
と言い捨てて、次の職場の方に巡視にまわりました。
この青年は、かねて青嵐居士が分類に於て、戊種の方へ編入して置いた一人でありました。戊種というのは、つまり、好奇でここへ参加して来ている人種をいうのです。好奇性もあり、煩悶性《はんもん
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