を透かさず泳がせて置いて、間一髪《かんいっぱつ》に摺り抜けてしまったという早業になるのです――摺り抜けた途端が、すでに走り出したことになる。摺り抜けるのも鮮やかなものだったが、その逃げっぷりがまた一層あざやかなもので――敵も、味方も、あっ! と言って、思わず胸を透かさせたと言いつべき切れっぷりでありました。
ここまで言ってしまえば、当然このすばしっこい摺抜け者が、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵という名代《なだい》のやくざ[#「やくざ」に傍点]野郎にほかならないことは、定連《じょうれん》はみな感づいていないはずはないのであります。
果して、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百の野郎は、かくの如くしてこの場を走り出しました。
一方、名探偵の轟は、ひとまずは不意を食って泳がせられたものの、これをこのまま口をあいて見送っている男ではない。
かくて、白昼、意外な捕物沙汰が街道を驚かして、この事のセンセーションのために、「晒し」そのものの場は閑却されたのみならず、「晒し」見張りの役人非人までが、轟親分の捕方の方へ気を取られて、バラバラと走り出したという乱脈になりました。
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