やや落着いて、
「どうしたというんです、ありゃあ」
そっと、ささやくように、傍らの人に問いかけたものです。
「ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]者ですよ」
「ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]てのは……」
「つまり、百姓|一揆《いっき》でござんすな」
「あれがですか、あの男が百姓一揆なんですかね」
「へえ、あれ一人が百姓一揆というわけじゃあございませんな――やっぱり一味ととう[#「ととう」に傍点]の一人なんでしてな」
「あれが……」
「左様でござんす、一味ととうのうちでも、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]を企てた最も罪の重い奴ですから、それであの通り、『晒し』にかかりました、明日あたりは打首という段取りでござんしょう」
「冗談じゃあない――あれが、あの男が、この土地の百姓なんですか」
「そうですなア、さればこそ、ああして『晒し』にかけられるんでげさあ」
「嘘をお言いなさんな」
あわただしい旅の男が、問答者を相手に気色《けしき》ばんで、
「嘘をおっしゃるな、ありゃあ、この土地の者じゃありませんぜ、あの男は、この国の百姓じゃござんせんぜ」
「でも農奴《のうやっこ》と書いてござん
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