が八名では比較が取れまい」
「なあに、文書きの方は、どうしようかと考えてみたんでげすが、拙がひそかにこの計画を洩《も》らしやすてえと、ぜひ、幾人でもいいから差加えていただきてえ、絵かきの下っ端で結構、刺身のツマとして、ぜひ差加えていただきてえと、先方から売り込んで来るんでげすから、退けるわけにいかねえんでげす、そこで刺身のツマとして文書きを八名ばかりがところ、差加えてやることに致しやした」
「ふーむ」
「それから、書道の方でがす。次は、役者――この役者てえやつが、おのおの家柄があったり、贔屓《ひいき》があったり、それに頭数が多かったりして、いちばん事めんどうなんでげして、鐚もこれが人選には困難を極めやした」
「ふーん」
「それから、長唄、清元、芸妓の方からは誰々、お女郎の方からはこれこれ――和歌と、発句と、ちんぷんかんぷん――委細のわりふりと、面《かお》ぶれは、この一札をごらん下し置かれましょう」
こう言いながら、鐚助は枕許の鼻紙袋をかき寄せて、その中から何か書きつけた紙切れの折畳んだのを引っぱり出して、神尾の方へ突き出しました。
「これが、拙の苦心惨憺になる帝国芸娼院の面ぶれなんでげして、これを早く発表いたしますてえと、あっちからも、こっちからも苦情がつく、こういうことは、得てして、お安いところで手っとり早く、でっち上げてしまわなけりゃ物になりやせん」
神尾は寝ながら、鐚の差出した人選表なるものを受取って、
「ふーん」
と言いながら、面前にひろげて読みはじめている。
得意気に、側面から、この面色を窺《うかが》いつつ鐚が言いつづけます、
「いかがなもんでげす、多少の議論はございましょうとも、まず、当世、百と限りますてえと、そんなところじゃあがあせんか」
「ふーん」
「あれを取れば、これを捨てなければならん、これを捨てては、あれが立たず……という苦心惨憺のところを買っていただきてえ」
「ふーん、何だと、ひとつ読み上げてみようか。まず絵かきで、狩野迷川院、谷文昌――それから、歌川虎吉に、国定国造、ふーん、おれの知っている名前もある、知らねえのもある」
「そっちの方は、それは日本絵所人別帳をすっかりそのまま並べたんでげすから、文句はござりますまい」
「ところで文書きの方は――こうと」
「為永春水――柳亭種彦、あたりを筆頭と致しやして、木口勘兵衛、乞田碁監、徳利亀八、
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