れはわからない。運搬の途中、過《あやま》って取落したにしては念が入り過ぎている。長浜の土地は山車《だし》の名所だから、それを知っているものは、これも山車の人形の一つで、相当の名工が腕を振《ふる》ったものであろうとの想像はつくけれど、山車の人形というものは、守留《もりどめ》の上に高く掲揚せらるべきもので、土の上へ投げ捨てて置かるべきものではない。まして、高札風情に押し潰《つぶ》されて、起きも上れないような鍾馗様では、鬼に対しても睨《にら》みが利かないのだ。まさに誰かの悪戯《いたずら》だ、悪戯にしても念が入り過ぎている悪戯で、笑いごとの程度では納まらない。だから米友も、
「性質《たち》のよくねえいたずらだ」
ぼうぜんとして、その鍾馗様を睨めたまま、為さん様を知りませんでした。
その時、不意に米友の後ろから風を切って、
「御用!」
「捕《と》った!」
黒旋風《こくせんぷう》のようなものが、後ろの浜屋の天水桶の蔭から捲き起ったと見ると、米友の背後から、さながら鎌鼬《かまいたち》のように飛びついたのです。
「何だ、何をしやがる」
そこで、クルクルと二つのものが巴《ともえ》に廻ったかと見ると、その一つは忽《たちま》ち遥か彼方《かなた》の街頭にもんどり打って転び出したが、起き上ることができない。
それは、天水桶の蔭から飛び出した鎌鼬で、こなたの米友が、
「何だい、何をしやがんだい、不意に飛び出して、人をつかまえようたって、そうはいかねえや、用があるなら行儀作法で来な、おいらは、人につかまるような悪い人間じゃあねえんだぞ」
米友としては全く予想外の乱暴に出逢ったものですが、飛びついた方は理由なしにかかったのではない。「御用!」「捕った!」の合図でもわかる通り、これはたしかに職分を以て、この町の民の安寧のために、特に不穏な時節柄を警戒すべく巡回の役向のお手先である。今、密行中に、路上にうずくまる挙動不審の男を、相当以前から物蔭にかくれて動静をうかがい、いよいよ挙動不審を確めたから、そこで、旋風の如く躍《おど》りかかって、引捕えるべく飛びかかったものに相違ないが、それを曲者にいなされて、捕えらるべきものがここに踏みとどまって、捕うべき者が遥か彼方へ投げられて、そうして起きも上れない体でした。
暫くこの形のままで静かでしたけれども、投げられた相手が、暫くして、そろそろと動き
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