、やがてやや血気を静めて、そうして斬られている当人の果してなにものであるかの検討にとりかかりました。
 二足三足と近づいて見ると、斬られた奴はうつぶしに倒れている。そうして、背中には何物かを背負っている。うつぶしに倒れているから、一見しただけでは人相そのものはわからない。その背中に背負っているものは――背負っているというよりは、背負わせられているといった方がよろしい、背負わせられているというよりは、むしろ背中へ結びつけられた、という変な取合せで背中に背負わせられているのは、よく高札場《こうさつば》にあるあの立札なのであります。高大な立札を背負わせられたまま、前へのっけに突伏している形ですから、また見ようによれば、人間が高札に押し潰《つぶ》されているようなもので、人間そのものを検視する先に、「さあ、もう一ぺん読め!」と高札をつきつけられているような形です。

         百九十七

 その時、米友の頭へピンと来たのは、この高札がまた只《ただ》ものではない、それはもとより、人間一匹を押しつぶして、息の根を止めているくらいの高札だから、只の高札でないことはわかっているが、この只者でない高札にもまた、一応見覚えがある! と米友の頭に響かざるを得なかったのは、これも先に、生活品の買出しに長浜へ来た時に、札場で見たあの高札――念のために、その時うろ読みに読んだ文章を再現してみると、次のようなものでありました。
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   「定
何事によらず、よろしからざることに、百姓大勢申し合はせ候を、とたう[#「とたう」に傍点]ととなへ、とたうして、しひて願ひ事企てるを、がうそ[#「がうそ」に傍点]と言ひ、あるひは、申し合はせ、村方立退候を、てうさん[#「てうさん」に傍点]と申す、他町村にかぎらず、早々其筋の役所に申し出づべし、御褒美として、
 とたうの訴人  銀百枚
 がうその訴人  同断
 てうさんの訴人 同断
右之通り下され、その品により帯刀苗字も御免あるべき間、たとひ一旦同類になるとも、発言いたし候ものの名前申し出づるにおいては、その科《とが》をゆるされ、御褒美下さるべし……」
[#ここで字下げ終わり]
云々《うんぬん》の心覚えを、米友が思い返して、
「うむ、あの、あれだ、あれだ」
と合点《がてん》したが、合点のゆかないのは、あの時、あの高札場高く揚げて、何人
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